◆ 白球つれづれ2019~第39回・リーグ制覇を支えた右腕

 プロ野球の世界、マスコミの目から見ると優勝時はネタの宝庫と言える。日頃はチームの規律や知られざるベンチ裏の話に口の堅い選手が多い中で、優勝が決まると独占手記や特別インタビューなどで思わぬ内幕が明かされる。

 クスッと笑ってしまったのは山口俊と菅野智之のやり取りだ。

山口「菅野は、こちらからどんな調整の仕方をしてるの?とか聞いても中々、教えてくれなかったり。今年になってやっと口をきいてくれたかな?」

菅野「だって、俊さんは、それまで何もやっていなかったでしょう」

 菅野と言えば、巨人どころか球界を代表する大エース。これに対して山口は一昨年にベイスターズからFA移籍した新参者。しかも昨年までは2年間で10勝をあげた程度で期待ほどの働きは出来ていない。チーム内序列では山口が2歳年上とは言え、圧倒的な差がついていたのがこの会話からもわかる。

 だが、今季は立場が逆転した。度重なる腰痛で戦列を離脱した菅野に対して、山口はシーズンを通じて、ほぼフル回転の働き。15勝4敗で最多勝、188奪三振はDeNAの今永昇太を振り切って最多奪三振、勝率でも「.789」の高率を残して最高勝率。プロ14年目で初めてタイトルを手にしただけでなく、投手三冠に輝いたのだから見事な働きだ。

 シーズンのMVPは「坂本勇人をおいてない」と監督の原辰徳がお墨付きを与えたくらいだから「決まり」だが、この成績だけを見れば山口がMVPでもおかしくない。

◆ どん底からの変貌

 ストレートの最速は157キロ。自慢のフォークは鋭く曲がり落ちる。カーブ、スライダーにシュートと球種は豊富だ。ベイスターズ時代は三振を奪えることでストッパーも務めている。だが、常に全力投球を求められた抑え役から解放されて投法が変わった。年齢を重ねたこともあるのだろう。

 ポイントは「脱力」にある。セットポジションに入ってから打者に対峙するまで、ほとんど力感を感じない。それでいてボールをリリースする瞬間にパワーを集中するから、打者にとっては手元でぐんと伸びて来る。

 今季限りの現役引退を表明した阿部慎之助が来日直後のS・マシソンの力任せの投球を見て、「80%の力で投げなさい」とアドバイスした話は有名だが、山口もまた、この脱力投法を身に着けて本物のエースに変身を遂げた。

 巨人移籍直後の2017年には大事件も起こした。酒席で泥酔の挙句、治療に向かった都内の病院で器物損壊と警備員に暴行をはたらいたとして、球団から罰金、シーズン終了までの出場停止と、その間の減俸の処分を受ける。その額は1億円を超す巨額となり、プロ野球選手会が処分不当として抗議をするなど球界を揺るがす騒動に発展した。

 その一方で、昨年7月の中日戦でノーヒットノーランを達成するなど復活の兆しは見えていた。そして今季の働き。事件直後には解雇の噂も飛んだが、巨人の5年ぶりのV奪還は山口の活躍なしには実現しなかったのもまた事実だろう。

◆ 新たな大黒柱として

 リーグ覇者が登場するクライマックスシリーズは、10月9日(水)からのファイナルステージだ。まだ、日にちがあるとはいえ菅野の調整次第では山口が大黒柱としてフル回転する可能性は高い。現時点で山口以外の先発候補は、桜井俊貴やC・メルセデスらで決して盤石の投手陣とは言い難い。

「優勝のかかる緊張感の中で投げて来られたのは、自分にとっていい経験になった。今の調子をさらに上げて日本一に貢献したい」

 9月は負け知らずの3連勝で投手三冠に弾みをつけた。「我が世の秋」は「実りの秋」でもある。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

【荒川和夫・プロフィール】
1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中。

この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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