コラム 2019.10.08. 17:00

異競技からのプロ野球挑戦!正真正銘の“隠し玉”だった大嶋匠【連載:ドラフト“隠し玉”ヒストリー】

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元日本ハム・大嶋匠 (C) Kyodo News

“隠し玉”ヒストリー【第2話:大嶋匠】


 2011年のドラフト会議は、最初から最後まで日本ハムが賑わせた。

 当時、意中の巨人以外からの指名を拒否する姿勢を表明した東海大・菅野智之を日本ハムが1位で強行指名。「その年で一番いい選手を指名する」という球団のポリシーを守った日本ハムに対して、場内から大きな拍手が送られた。

 巨人との一騎打ちの抽選の末に、日本ハムは菅野の交渉権を得た。だが、菅野は日本ハムとの入団交渉を拒否して浪人。翌2012年ドラフトであらためて巨人から1位指名を受け、プロ入りを果たしている。


 例年のドラフト会議は、1位指名が最高潮の盛り上がりを見せ、2位以降はだんだん会場も静かになっていく。下位指名になるにつれ、知名度がある選手の指名に拍手が起きるくらいで、淡々と進行していくものだ。だが、日本ハムのドラフト7位指名のアナウンスに、1000人のファンが詰めかけた場内はバケツをひっくり返すような熱狂とかすかな笑いに包まれた。

 指名されたのは、「早稲田大ソフトボール部の大嶋匠」。とんでもない隠し玉だった。


正真正銘の“隠し玉”


 ソフトボール選手が、プロ野球に進む――。

 そんなフィクションのようなことが現実に起きるのか。また、事前に報道されていたならまだしも、大嶋は指名まで情報が完全に伏せられた正真正銘の隠し玉だった。

 指名を受けた大嶋は、ソフトボール界では超大物だった。小学生時は軟式野球チームに入っていたが、中学から高校、大学とソフトボール部に所属。新島学園高ではインターハイと国体で優勝を経験し、早稲田大では13試合連続本塁打を含む通算80本塁打というとてつもない記録をマークしていた。当時、身長180センチ・体重95キロという大型スラッガーだった。

 早稲田大ソフトボール部の吉村正監督が大嶋のポテンシャルに目をかけ、「プロ野球でも勝負できる」と大嶋にプロ野球挑戦を勧めた。その言葉に触発された大嶋は「プロテストを記念受験したい」と吉村監督に申し出る。すると、吉村監督は早稲田大出身の大渕隆スカウト(日本ハム)に連絡を取り、大嶋のプレーを見てもらった。その縁から大嶋は社会人野球の強豪・セガサミーの練習に参加するようになる。

 初めてプレーする硬式野球。当然のことながらボールの大きさも質感も違えば、グラウンドのサイズ感もまるで違う。とくにマウンドと本塁までの距離はソフトボールが14.02メートルなのに対して、野球は18.44メートル。4メートル以上も長いため、スピード感が違った。それでも、大嶋は打撃練習でホームランを連発する。ただし、変化球への対応は手を焼いた。プロ入り直前、大嶋は「ソフトボールには野球のカーブのような少し浮いてから落ちる変化球がないので、少し戸惑いました」と語っていたことがある。


異競技からのプロ野球挑戦という夢


 徐々に硬式野球に慣れていった大嶋は、ついに日本ハムの入団テストを受験する。

 日本ハムのテストは非公開で行なわれ、なかには甲子園に出場した有望選手の姿も。大嶋と一緒に受験した選手のなかには、下級生時から甲子園で騒がれたような有名選手も混じっていた。

 そんななか、大嶋は持ち前の長打力を発揮して日本ハムの編成陣から将来性を高く買われることになる。周りの受験者に自分から「ソフトボール出身です」とは告げなかったため、気後れせずにプレーができたという。

 入団後も、大嶋は世間の度肝を抜いた。2月の春季キャンプでは紅白戦に登場し、実戦初打席でセンターバックスクリーン直撃のホームランを見舞ったのだ。ストーリー性と将来性を併せ持つ大砲の出現に誰もが夢を見た。

 だが、その後は大きく脚光を浴びることはなかった。日本ハムで7年間プレーするも、一軍出場は15試合。安打はわずか3本に終わり、ホームランは0だった。最後まで変化球への対応に苦しんだ。

 結果だけを見れば、大嶋の挑戦は実らなかったのかもしれない。だが、異競技からのプロ野球挑戦は、ファンに壮大な夢を抱かせるには十分だった。


文=菊地高弘(きくち・たかひろ)

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