コラム

ソフトバンク・周東佑京、脚のスペシャリストの威力【白球つれづれ】

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侍ジャパンの稲葉監督とはU-23代表時代にも共にプレー

白球つれづれ2019~第42回・勝負の行方を左右する韋駄天


 日本シリーズやクライマックスシリーズといった短期決戦では必勝の法則がある。強力な投手陣を有する事、ラッキーボーイが生まれる事、そして大事な局面で試合の流れを変えるスペシャリストの存在だ。

 ソフトバンクと巨人の日本シリーズの滑り出しも例外ではない。初戦、第2戦ともソフトバンクの千賀滉大、高橋礼ら強力投手陣が威力を発揮している。さらに第2戦では松田宣浩が先制3ラン、チームリーダーでありムードメーカーでもある厄介な男を巨人は乗せてしまった。そしてもう一人、巨人ベンチが予想以上の脅威を感じているのが、足のスペシャリスト・周東佑京の存在だ。

 今シリーズでは「7回の男」が代名詞。決まって接戦の場面に代走として起用されるとゲームを動かすキーマンになっている。

 初戦は2点リードも重苦しい展開の7回、無死二塁で代走。次打者・内川聖一の送りバントは投前に転がり三塁送球でアウトと思われたが、周東のスタートとスピードでバント成功。一死三塁から四球を選んだ川島慶三が打者・牧原大成との“偽装スクイズ”の間に二盗。これも周東の脚を警戒するから二塁に投げられない。後は一気呵成の3連打など4得点で勝負は決した。

 続く第2戦は0-0の7回、A・デスパイネが無死から三塁手の失策で出塁すると、代走として登場。50メートル5.7秒の快足を誇示するように大きなリードを取るスペシャリストに対して、マウンド上の大竹寛も3度の牽制球を投じるが注意が一塁に向く分、打者への制球が乱れる。カウント3-1となったところで周東がスタート。Y・グラシアルとのラン&ヒットが決まり、左前打で一三塁に。その直後に松田宣の3ランが飛び出した。こう見ると、足のスペシャリスト・周東がラッキーボーイにもなっている。


一芸主義の賜物


 ソフトバンク自慢の育成、三軍制度から逸材は誕生した。2017年のドラフト、育成2巡目に指名された周東は、年俸400万円からのスタート。東農大オホーツク出身、プロの目からは埋もれてしまってもおかしくない素材だったが、ここでソフトバンクの育成戦略が生きる。

 千賀滉大も甲斐拓也も育成出身ながら、スピードボールが投げられる、強肩に見どころがあるという特長があった。一芸主義の下、快足と内外野どこでも守れるユーティリティー性を見込まれて周東も入団。プロ1年目の昨年は二軍暮らしが続いた背番号121だったが、ウエスタンリーグトップの27盗塁でいきなりU-23のW杯日本代表に選出された。

 そして今年の3月に待望の支配下選手登録を勝ち取ると、幸運は続く。開幕直後、チームに故障者が続出、急遽一軍に呼ばれると、首脳陣の目にその快足が止まり、欠かせない戦力に成長した。シーズンの打率こそ「.192」とまだまだ物足りないが、25盗塁と隙のない走塁、快足を生かした守備で、ここ一番での秘密兵器としての役割を任される。

 韋駄天ぶりに目を付けたのは監督の工藤公康にとどまらない。11月2日に開幕する『WSBCプレミア12』に臨む侍ジャパン監督・稲葉篤紀は、豪華メンバーの中に周東を選出した。投手陣では中継ぎの重要性を、野手では内外野を守れるオールラウンダーの必要を説く指揮官はここ一番の脚のスペシャリストとして、まだレギュラー定着も果たしていない若者を指名した。それだけの魅力と可能性を感じているからだろう。

 短期決戦は、この先どう転ぶかわからない。勝負を賭ける代走のスペシャリストは、ワンサイドゲームや負け試合で起用されることは少ない。だが、接戦のヒリヒリした場面でこそ存在感が際立つ。周東だけでなく、福田秀平や牧原大成ら快速選手が揃って先発メンバーから代わっても戦力が落ちないのがソフトバンクの強み。直近5年間で4度の日本一の原動力がそこにある。さて、今季もまもなく決着の時だ。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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