今年の“捕手1位”
10月23日、ソフトバンクが巨人を4連勝で破り、日本一3連覇を達成。この瞬間、プロ野球の2019年シーズンは幕を閉じた。余韻に浸る間もなく、翌24日からはFAの申請がスタート。いよいよ本格的なストーブリーグの幕開けとなる。
各選手の移籍、FA市場の動向を左右するのが、その約1週前に開催されたドラフト会議の結果だ。今年は佐々木朗希、奥川恭伸という高校生の逸材に大きな注目が集まった中、野手では近年まれにみる“捕手の当たり年”としてひそかに注目を集めていた。
なかでも最も上位で指名されたのが、ロッテ2位の佐藤都志也と、ソフトバンク2位の海野隆司の2人。全体順で見ると佐藤が18巡目、海野は22巡目での指名と言うことで、今年の“捕手の1位”は佐藤ということになる。
最大の魅力はバッティング
福島県で圧倒的な強さを誇る聖光学院高から東洋大を経て、プロの門を叩いた佐藤。彼の最大の武器は打撃で、2年の春から一塁手としてレギュラーに抜擢されると、いきなり首位打者を獲得。3年の春からは正捕手の座を掴み、大学日本代表にも選出された。
この夏の日米大学野球選手権では、正捕手の座を海野に譲ったものの、やはり打力を買われて一塁や外野で出場。それほど打撃には定評がある。本人は「捕手一本」の意向を示していたが、入団するチームによっては打力を活かすためのコンバートという可能性も少なくはなかったように思う。
その中で、この佐藤を選んだのはロッテだった。ロッテの捕手事情を見ると、最年少がレギュラーの田村龍弘で25歳。まだまだバリバリと働くことができる年齢とはいえ、今季は故障もあって正捕手定着後最少となる100試合の出場に留まった。
加えて、高校時代こそ強打の捕手の印象もあった田村だが、プロ入り後は打撃の方では苦戦気味。そんな事情もあり、“打てる捕手”として期待できる佐藤をロッテは選んだ、という見方ができる。そんな背景から、佐藤はおそらく捕手として起用されていくことだろう。
球界に少なくなった「打てる捕手」
近年、「打てる捕手」が少なくなって久しい日本球界。その代表格だった巨人の阿部慎之助は、今季限りで現役引退を決断。日本シリーズ終了後、両軍の選手から胴上げをされてグラウンドを去った。
その阿部に続く存在として台頭してきたのが、西武の森友哉だ。今季はその阿部以来、捕手として史上4人目となる首位打者のタイトルを獲得。「打てる捕手」絶滅の危機を救った。
「打てる捕手」が減っている要因のひとつに、コンバートがあるのは間違いない。打撃の良い捕手は、その打力をさらに生かすために、守備の負担が少ないポジションへと転向されることも多くなる。
例えば、今季も巨人の大城卓三が完全なコンバートではないものの、一塁を守ることで出場機会を増やしている。ほかにも、大ブレイクを果たしたヤクルトの村上宗隆は高校時代は捕手だったが、プロ入りと同時に内野を主戦場に変えた選手で、さらに日本ハムの近藤健介や中日の福田永将といったところも、実は“元捕手”である。
こうした事情から「打てる捕手」が育ちにくくなっているものの、逆に言えば、「打てる捕手」がいるチームはそれだけで、攻撃力の面で大きなアドバンテージを得ることになる。打てるから他のポジションで抜擢しようではなく、打てるからこそ捕手として育てることの重要さが高まってきているのだ。
その点、佐藤はプロの世界でも「打てる捕手」として大きく飛躍する可能性を十分に秘めた選手である。どうしてもロッテでは1位の佐々木朗希が大きな注目を集めるが、佐藤の正捕手獲りへの挑戦にも注目してもらいたい。