意外なほど少ない無償トレード
10月26日、中田賢一投手(ソフトバンク)が無償トレードにより阪神へ移籍することが発表された。中田といえば、中日時代は虎キラーとして阪神ファンに嫌がられた存在。また、2013年オフに中田がFA権を行使した際には、阪神も獲得に動いた縁もある。阪神としては6年越しで中田の獲得を叶えたかたちだ。
ところで、「無償トレード」にはどんな意味があるのだろうか。その字面から内容はなんとなく想像はできるものの、そう頻繁にあるものではないため、その詳細やメリットについては意外と詳しく知らないというファンもいるかもしれない。
中田以前に無償トレードが成立した直近の例は、2017年オフにソフトバンクからヤクルトへ移籍した山田大樹投手。その前となると、2010年にロッテから日本ハムへ移籍した佐藤賢治の例にまでさかのぼる。それほど、無償トレードはレアなケースといえる。
無償トレードとは、文字通り選手交換や移籍金負担などを伴わないトレードのこと。選手を譲渡する球団からすれば、平易な表現なら「他球団にただで選手をあげる」のだから、メリットはないようにも思える。だが、もちろんそういうわけではない。今回のケースにおいて推察してみよう。
ソフトバンクの敬意の表れ
トレードに出す以上、中田はソフトバンクの来季の構想から外れたということだ。しかし、中田はFA移籍で迎えた選手。ソフトバンクでの6年間で39勝を挙げ、チームにしっかり貢献した功労者だ。しかも、今季は一軍では1試合しか登板していないとはいえ、二軍では防御率、勝率の投手二冠に輝いている。そんな選手に戦力外通告を突きつけては本人もファンも納得できるものではないだろう。
また、10月1日以降に自由契約選手として公示された選手は12球団合同トライアウトの前に他球団が獲得することができないため、該当選手はトライアウトまで自主トレをするしかないことも重要なポイントだ。一方のトレードの場合は、トライアウトを受けることなく移籍先が決まるため、新天地での練習に即座に参加できる点で、トレードに出された選手本人にとって大きなメリットがある。つまり、今回のトレードは、中田に対してソフトバンクが礼儀を尽くした結果と見ていい。
また、中田のようなまだ力のある選手を自由契約にした場合、同一リーグのライバル球団が獲得し、来季以降に敵として活躍するということも十分にあり得る。そういう事態を避けるため、ソフトバンクは意図的にセ・リーグ球団を中田のトレード先に選んだと考えていい。つまり、チームの構想からは外したものの、いまもソフトバンクは中田の力をある程度評価しているということだ。
そして、阪神からすれば、常勝軍団・ソフトバンクで中田が手にした多くの経験は大きな魅力だ。長くリーグ優勝から遠ざかっている阪神に、中田加入がどんな効果をもたらすのだろうか。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)