コラム

“短期決戦の鬼”工藤公康という男【白球つれづれ】

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4連勝で3年連続10度目の日本一に輝き、胴上げされるソフトバンクの工藤監督

白球つれづれ2019~第43回・新たな名将として


 野球界には古くから伝わる格言がある。

「名投手、必ずしも名監督にあらず」

 確かに過去の名監督と呼ばれる系譜を見ていくと、西鉄の三原脩、巨人の水原茂に南海の鶴岡一人から川上哲治。さらに西武の森祇晶やヤクルトの野村克也など、内野手と捕手出身者が名を連ねる。近いところでは中日の落合博満や巨人の原辰徳らも内野手出身だ。投手出身では、巨人の藤田元司、楽天の星野仙一らが日本一監督になっているが印象と実績では内野手出身者に軍配が上がる。

 かつて、その理由を野村がこう語っている。

 「投手はお山の大将。自分のピッチング以外に興味がない。捕手は他の8人がこちらを向いて守っているのに対して、一人だけ全方向を向いて守るから視野も広い」。内野手は連係プレーや走塁など指揮官になってもチームを動かすことに長けているというわけだ。

 だが、こんな球界の歴史もソフトバンクの監督・工藤公康が打ち破ってしまった。巨人との日本シリーズは圧倒的な強さで4連勝。シリーズ3連覇を成し遂げた工藤は、今季のポストシーズンに10連勝。日本シリーズの成績は現役時代と監督を合わせて15勝(現役11勝3敗、監督4勝0敗)に達した。これは川上と並ぶ歴代2位で、西武時代の恩師でもある森(現役11勝2敗、監督6勝2敗)の17勝まであと「2」と迫っている。

 まだ56歳の若さ。ソフトバンクとは来季から新たに2年契約を結んでおり、どこまで記録を伸ばすのか? 興味深い。


指揮官としての原点


 指揮官の工藤には、どこか森に似た香りがある。西武の黄金時代を築いた名将とエース。現役時代の工藤はどこかやんちゃ坊主のようで明るいキャラクター、現西武のGMである渡辺久信とともに「新人類」と騒がれた。

 決して監督との関係が良好だったわけではない。しかし、森の勝利への執念は人一倍強い。工藤、渡辺だけでなく、東尾修、郭泰源、石井丈裕らの強力投手陣を擁したディフェンス野球に、清原和博、秋山幸二、石毛宏典らの主力打者にも自己を殺した進塁打まで要求して白星を積み上げた。

 “短期決戦の鬼”と賞賛を集めた工藤にも共通項は多い。まず、盤石の投手陣を巧みに操る。日本シリーズでも初戦をエースの千賀滉大で取ると、2戦目に今季からローテーション入りを果たした2年目の高橋礼を起用し、7回零封で大一番の流れを引き寄せる。

 「初戦の千賀は速球派だから、下手投げの高橋で(巨人打線の)目先を変えておきたかった」と、後に工藤は説明したが、投手出身の監督らしい戦術眼だ。

 打線に目を移すと、第4戦ではチームの大黒柱である内川聖一を先発から外して福田秀平を一塁に起用。これも巨人先発の菅野智之に対して交流戦で本塁打を放っているデータを活用したもの。チーム内序列より、短期決戦では調子の良さと相性。「勝利を優先した時に何が最善の手か? 申し訳ないが、最後は自分の考えを貫かせてもらいました」と工藤は言うが、こうした勝利至上の決断は西武時代の森から影響を受けているのだろう。


新戦力の抜擢


 親会社をバックにした圧倒的な資金力、球団会長の王貞治を筆頭にした優秀なバックアップ体制は確かに他球団を圧倒する。豊かな選手層が連覇を可能にしていることは確かだ。

 しかし、2年前のMVPである守護神D・サファテや岩崎翔らの抑え陣はシーズンを通して不在だった。石川柊太、東浜巨らの準エース格に加え、野手でも柳田悠岐、中村晃らが故障により、シーズンの大半は不在という中でのやりくり。そんな中で高橋礼や高橋純平、甲斐野央らの新戦力を育て上げた工藤の眼力と起用法は光る。

 この数年、ネット裏では工藤と選手の関係を疑問視する声があったことは確かだ。しかし、名監督と呼ばれる指揮官たちは、総じて選手との間に一定の距離を置く。情にほだされることなく勝負に徹するには必要な距離感である。そんな工藤が日本一の瞬間にはピョンピョンと飛び跳ねて柳田に抱きついた。

 それもつかの間、11月から始まる秋季キャンプでは更なる猛練習を選手に求める。この2年間、リーグ優勝は西武に軍配が上がった。次なる目標はリーグを制しての日本シリーズ4連覇、それを達成したとき、“短期決戦の鬼”は、完全無欠の名将の座を手に入れる。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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