白球つれづれ2019~第44回・新たな潮流
侍ジャパンが世界一に挑む「プレミア12」の開幕を前に、西武の秋山翔吾が戦列を離脱した。直前の対カナダ強化試合で死球を右足指に受けて骨折が判明したものだ。
秋山と言えば、今オフにFAによるメジャー挑戦を表明。世界大会の出場はMLBのスカウトや球団関係者も視察に現れるので、活躍すれば評価も上がる。好条件を勝ち得てメジャーリーガーになるはずが、思わぬアクシデントで逆に暗雲が垂れ込めた格好だ。
しかし、近年「侍ジャパン」に選出されるほどの選手の多くは、将来のメジャー挑戦を胸に秘め、海外との交流戦を自身の腕試しと位置付けている。また、こうした世界大会で刺激を受けて次なるステップを決意する選手も少なくない。「プレミア12」とは選手の品評会の場でもある。
注目の新生ヤクルト
今や、メジャーに草木もなびく日本球界だが、その一方で米国に渡って活躍した後に帰国し、指導者になる「元大リーガーたち」が近年、増えてきた。
昨年、元ホワイトソックスなどで世界一を経験した井口資仁がロッテの監督に就任すると、今オフにはヤクルトが新監督に高津臣吾を指名。彼もまたホワイトソックスなどでストッパーとして認められた経歴の持ち主だ。
井口の下では投手コーチの吉井理人もメッツなどで米通算32勝を記録。高津スワローズでは、来季から斎藤隆が投手コーチを務めることになった。横浜ベイスターズ(現DeNA)から36歳の時に海を渡ってドジャースを皮切りに4球団に在籍し、その後、楽天で日本球界復帰。2015年に現役引退すると、今度は米球界の組織作りや球団編成を学ぶためにパドレスのフロント入りを果たした。
斎藤は45歳まで現役を続け、先発も中継ぎも抑えも経験している。その後も勉強を続けた苦労人は高津新監督とは大学時代から親交をもつ仲だ。リーグワーストの弱体投手陣をどう立て直すのか? メジャー流指導にも注目したい。
変革の球界
他にも元メジャー組はいる。今季から西武の二軍監督に就任したのが松井稼頭央(元メッツなど)。オリックスの田口壮もカージナルスなどでファンに愛された男であり、こちらは16年から二軍監督を務めて現在は一軍の野手総合兼打撃コーチだ。もうひとり、忘れてならないのが楽天のGM・石井一久。彼もドジャースなどで活躍したのちに日本に戻って現役を引退、今ではチームの運営全般を任される実力者にのしあがった。
こうした元メジャーリーガーの指導者たちを起用する狙いはどのあたりにあるのか? 元々、彼らは日本在籍時からチームの主力であり、人気も知名度もあったので球団としては話題作りや集客面も期待できる。さらに、かつては根性や経験が幅を利かせた球界も様変わりしてきている。
メジャー流の情報を分析したコンピュータ野球や投手陣の投げ込みを抑えた調整法など、新たな試みを肌で体験してきたものをチームに根付かせたい、という時代のニーズと合致しているのだろう。
誰もが思い描く夢
日本人メジャーリーガーの第1号と言えば、1960年代にSFジャイアンツで中継ぎ投手として活躍した村上雅則を指す。しかし現在の流れを作ったのは1995年にドジャースに移籍した野茂英雄だ。それ以降は毎年のように日本人選手が海を渡り、メジャーもまた日本人プレーヤーを求めるようになった。
野茂以外に記憶に残る選手と言えば、イチローと松井秀喜で異存はないだろう。だが、この“ビッグ3”は、未だ日本のユニホームに袖を通していない。マリナーズのイチローとヤンキースの松井は共に球団の特別補佐的な役割を任されて後進の指導に当たっている。
今秋の中日秋季キャンプにやってきて投手陣にアドバイスを送る野茂にしても「野茂ベースボールクラブ」を創設してアマ野球の育成に情熱を注いでいる。本人たちがこれ以上、日本で監督をやるメリットを感じていないのか? 球団側も大物過ぎておいそれと手を出せないのか? いずれにしても、メジャー帰りの指導者は増殖中。この流れの先にイチロー監督や松井監督を見てみたいと思うのは、誰もが抱く夢だろう。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)