“社会人No.1左腕”を獲得
11月も半ばに入り、プロ野球界はいよいよ本格的なオフシーズンモードに。各チームで来季に向けた体制づくりが着々と進められており、補強や契約更改といった話題が徐々に増えてきた。
補強と言えば、あの“運命のドラフト会議”からも約1カ月が経過。それぞれの球団が指名した選手たちとの入団交渉を行い、仮契約を結んだ後に表明される意気込みが日々紙面やネット上を賑わせている。
日本ハムは、ドラフト1位で指名した河野竜生(JFE西日本)と仮契約を締結した。
毎年ドラフトでは「その年のナンバーワンを指名する」というのが鉄則のチームで、今年は“令和の怪物”こと大船渡高の佐々木朗希の獲得に挑むも、4球団競合の末に交渉権獲得はならず。その再入札でも、河野を巡ってオリックスとの競合になったが、ここでは当たりクジを引き当てた。
河野は再入札で競合になったように、今年の社会人No.1左腕の呼び声も高い即戦力投手。174センチと小柄ではありながら完成度の高い投球が持ち味で、チームは1年目からの活躍に期待を寄せている。
ドラフト1位選手を確実に戦力に変える
徹底した指名戦略もあってか、近年の日本ハムのドラフト1位指名選手を見ると実績を残している選手が非常に多い。
今季エースとして奮闘した有原航平(2014年)を筆頭に、大谷翔平(2012年/現エンゼルス)やダルビッシュ有(2004年[高]/現カブス)は海を渡ってメジャーリーグでも活躍中。ほかにも、打線の軸である中田翔(2007年[高])も1位指名からしっかりと主力になった。
また、残念ながら入団は叶わなかったものの、2011年には巨人との相思相愛がかねてから伝えられていた東海大・菅野智之に“特攻”指名。ドラフト当時は直接のメジャー挑戦にも揺れていた大谷を口説き落としたことも含め、なにがあろうと「その年のナンバーワン」を貫く姿勢は日本ハムの色としてすっかり定着している。
こうした過去の例もあって、今年のドラ1・河野にも同様の期待がかかるのは当然のところ。しかし、実は上述した成功例とは少し違う部分がある。そう、ここまでに挙がった選手たちはいずれも高卒か大卒でのプロ入りであり、社会人からプロ入りした選手の例はないのだ。
社会人出身者の1位指名は19年ぶり!
そもそも、日本ハムが社会人の選手を1位で指名したのは2000年までさかのぼる。
2000年のドラフト1位は井場友和(富士重工業)。速球とフォークを武器に1年目からリリーフとして40試合に登板を果たすと、2年目には45試合で11セーブとまずまずの成績を残したが、以降は伸び悩んで2006年に戦力外となった。NPBの5年間で通算149試合に登板したものの、“ドラ1”としては物足りない成績に終わってしまった。
さらにその前となると、1992年の山原和敏(川崎製鉄水島)とさらに10年ほどさかのぼることになり、以降も投手に限れば田中幸雄(電電東京/1981年)、木田勇(日本鋼管/1979年)、福島秀喜(丹羽鉦電機/1975年)、鵜飼克雄(四国電力/1973年)、東映時代の新美敏(日本楽器/1972年)、片岡建(リッカーミシン/1969年)。これまで計8人しか、社会人の投手を1位で獲得していないのだ。
このなかで結果を残したと言えるのは、1年目に22勝(8敗)をマークした木田と新人王を獲得した新美、そしてノーヒットノーランを記録した田中の3人くらいか。3人とも1990年以前の選手であり、活躍したと言えるのは30年以上も前のことになる。
社会人出身ながら今後の成長にも期待
これはあくまでも推測だが、チームの戦略として社会人の選手を避けてきたということは決してないだろう。
どうしても「その年のナンバーワン」となると、素材であれば高校生のいわゆる“金の卵”が優先になり、即戦力であれば大学球界を席巻したような選手になりがち。その戦略を徹底的に貫いてきたがゆえに、気が付けば「社会人投手の1位指名がなかなかない」という事態に陥っていた、ということなのではないか。
その中で、いわゆる“ハズレ1位”とはいえ、社会人出身として19年ぶりに1位指名された河野には注目が集まる。
なお、河野は社会人出身とは言っても、大学を経由していない“高卒社会人”の選手。年齢はまだ21歳であり、実は大卒組よりも1歳若いのだ。球団公式HPに掲載されている寸評を見ても、「21歳という若さも魅力で、さらなる進化も見込める」との記載もあり、1年目からの活躍はもちろんのこと、プロの世界でのさらなる成長にも期待がかかっている。
来季で9年目の政権となる栗山英樹監督も「すぐに勝ってくれるピッチャーが必要だった」とコメントしているように、今季Bクラスに沈んだチームの救世主となるか。チーム19年ぶりの社会人出身ドラ1から目が離せない。
▼ 河野竜生・プロフィール
ポジション:投手
投打:左投左打
身長/体重:174センチ/82キロ
生年月日:1998年5月30日(21歳)
経歴:鳴門高-JFE西日本-日本ハム(19年1位)
・球団寸評
「社会人NO・1左腕で、即戦力として1年目から期待が大きい。140キロ台後半の速球を軸に、変化球も精度が高く、緩急を生かした投球スタイルで完成度の高さはトップクラス。高校1年時から名門のマウンドを任されるなど第一線を走り続けており、経験値を生かして1軍で通用する逸材だ。21歳という若さも魅力で、さらなる進化も見込める」