白球つれづれ2019~第46回・問われる名門の底力
侍ジャパン世界一の歓喜も束の間、巨人に激震が襲った。エースの山口俊がポスティングによるメジャー挑戦を希望。球団も苦渋の決断の末、容認に踏み切った。
17日に行われた「プレミア12」の決勝戦(対韓国)に先発した山口は1回を3失点と散々の出来だったが、シーズンの働きはMVP級だった。「最多勝」、「最高勝率」、「最多奪三振」の投手三冠で5年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献している。
16年オフにFAで巨人入りも過去2年は不本意な成績が続いたが、今季は大黒柱の菅野智之が腰痛などで戦列離脱する中で大車輪の働き。だが、完全復活は山口のもう一つの夢にも火をつけたようだ。
DeNA時代から持ち続けていたメジャー挑戦への希望と共に来季は33歳、年齢的にもラストチャンスとなるため、ポスティングによる米国行きを決断したものだ。これまで同制度による移籍を拒否してきた球団だが、今回は山口の貢献を認めてゴーサインを出すしかなかった。
悲劇的なクジ運の悪さ
監督業とは、優勝の喜びも一瞬で、翌日には新たなチーム作りに腐心するという。指揮官の原辰徳にとっても、この秋は心の休まる暇がない。リーグ優勝は達成したものの、日本シリーズではソフトバンクに4連敗。むごいほどの力の差を見せつけられた。
「まだまだ発展途上」と指揮官も認める名門も、長年主力として活躍した阿部慎之助が現役引退、外国人もA.ゲレーロ、C.ビアヌエバの野手から、S.マシソン、R.クックらの投手まで大量に退団。一からの体質改善と補強を求められている。ところが、現時点では来季の好材料を探す方が難しい。
秋の陣、第一弾の「ドラフト会議」では、クジ運の悪さを露呈する。高校球界ナンバーワンの呼び声が高かった奥川恭伸を1位指名するもヤクルトに敗れ、次に指名した東芝の即戦力候補・宮川哲まで西武に競り負ける。ようやく外れ外れ1位で青森山田高の堀田賢慎獲得にこぎつけたが、将来性は認めても即戦力には程遠い。
ちなみに、昨年のドラフトでは根尾昴(現中日)と辰己涼介(現楽天)を外し、一昨年も清宮幸太郎(現日本ハム)と村上宗隆(現ヤクルト)をそれぞれ1位指名しながら外している。この中で2選手くらいが入団にこぎつけていればチームの様相も大きく変わったはず。改めて近年のクジ運の悪さを痛感する。
得意!?のFAでも惨敗…
思うようにいかないのはFA戦線も同様のようだ。毎年のようにFAで他球団の主力を獲得してきたが、今年は実りがない。楽天からFA権を行使した美馬学、ロッテから手を挙げた鈴木大地に猛アタック。中でも即戦力投手として計算できる美馬には5度に及ぶ交渉を重ねたが失敗。貴重なユーティリティー選手として獲得を狙う鈴木も楽天入りが発表された。
つい数年前まで、FA市場は巨人の独壇場だった。しかし、近年はソフトバンクや楽天なども豊富な資金力を誇る。かつてほど巨人人気が突出しているわけでもない。ここでも球界の勢力図が微妙に変化し始めていることがうかがえる。
ドラフトもうまくいかず、FAでも停滞する中で山口の流失だ。今季チームの勝利数「77」のうち、15勝をあげた山口の移籍はあまりに大きい。もう一人のエースである菅野が来季、今年以上に働く姿は期待出来ても、そのあとに確固たる先発ローテーションの名前が出て来ない。
両エースの他に今季の活躍度を見れば、C.メルセデスと桜井俊貴が8勝をマークして、ルーキーの高橋優貴が5勝で続く程度では心もとない。宮崎の秋季キャンプではかつてのドラ1男・鍬原拓也がオーバースローからサイドハンドに転向テスト。投手陣の底上げにあらゆる可能性を探っている。
FA戦略の不調を受けて球団副代表の大塚淳弘は「リストアップして可能性があるかで調査していく」と、トレードにも目を向ける。全権監督の原だからあらゆるルートを駆使して大補強に動いているはず、その結果が来季の命運を握っていると言っても過言ではないだろう。今こそ、名門球団の底力が問われる時である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)