過去9シーズンを振り返っても…
2019年シーズンの個人成績のなかで、少し意外にも感じられる記録がある。それは、二塁打の数だ。
今季、12球団トップの43二塁打をマークしたのは、中日のビシエド。しかも、この数字はかなり飛び抜けたものであり、2位の菊池涼介(広島)が記録した36二塁打、3位の山田哲人(ヤクルト)、荻野貴司(ロッテ)の35二塁打を大きく引き離している。さらにいえば、統一球となった2011年以降の9シーズンにおいて、2017年にマギー(巨人)が記録した48二塁打に次ぐ2位の数字なのだ。
ビシエドの場合、三塁打を狙える走力はないため、他の俊足選手なら三塁打となる当たりが二塁打になったということは十分に考えられる。事実、今季のビシエドの三塁打はゼロだ。ただ、菊池や山田、荻野など他の選手の二塁打と三塁打を合わせた数字でもビシエドの二塁打の数には及ばない。広いナゴヤドームが本拠地であることも無関係ではないだろう。
ビシエドの打撃の持ち味は、レベルスイングで広角に速いライナーを打ちわける技術にある。一見してパワーヒッターと思わせる風貌ながら、2018年には最多安打と首位打者の2冠に輝いたことにも、その特徴が表れているだろう。
また、本人も、打撃に関して自身が意識していることとして、「すべてのボールをホームランにできるわけもなく、いちばん大事なのはボールをしっかり見ること」と語っている。本塁打狙いではないその姿勢が、結果的に二塁打増産につながっている面もあるはずだ。
意外なほど華麗な走塁
もちろん、二塁打もある程度の長打力がなければ記録できないため、高いバットコントロール技術に加えてパワーも併せ持つビシエドが二塁打数でトップになってもなんら不思議ではない。とはいえ、やはり走塁に関してもそれ相応の高い技術や意識がなければ、ここまでの数字は残せないのではないだろうか。
その巨漢から走塁が苦手だと思われがちなビシエドだが、決してそんなことはなく、スライディングも含めてむしろ意外なほどうまい走塁を披露する。加えて、走塁に対する意識は高い。今季も、一塁走者だったビシエドが、相手外野手の緩慢な飛球処理を見てタッチアップし、見事二塁を陥れたシーンがあった。
かつてはいわゆる「大砲」のイメージが強かった外国人選手だが、近年は守備や走塁も含めた総合力の高い選手がより求められるように変わってきた。ビシエドは決してそんなオールマイティーな選手とはいえないものの、常に次の塁を狙う姿勢は見ていて気持ちが良く、ファンからすれば応援したくなるだろう。
また、ほとんどの外国人選手がシーズン終了後すぐに母国へ帰国するところ、ビシエドは今月下旬に予定されている球団納会やファン感謝イベントへの参加を希望していることでも話題となり、ファンを喜ばせた。高い技術とパワーによる打撃だけではなく、「愛され助っ人」ビシエドの“ひたむき”な走塁に来季も要注目だ。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)