苦しんだ2019年
お化け屋敷で人に恐怖感を与えるのは、暗がりで先が見えないからだと言われている。
「ボール自体は悪くないと感じていたけど、細かいコントロールに苦しみました。狙ったところにボールがいかない」
いままでは頭で深く考えることなく、身体が普通に反応して出来ていたこと。それができずに苦しんだ。故障でもない、悪いところがハッキリしない状況。暗がりのなか、ピッチャーとして大切な“感覚”を取り戻すために、砂田毅毅はもがいた。
今年24歳になった6年目の砂田は、本格的に中継ぎ転向を果たした2017年、62試合に登板して25ホールドをマークし、翌2018年には70試合に登板。1年を通じてチームに貢献し、貴重な左腕としてブルペンを支えた。しかし、今年は一転して不調に陥り、登板数はわずか16試合、防御率は「5.11」。得意なはずの左打者に「.452」と打ち込まれるなど、不本意なシーズンを過ごした。
登板過多による疲れは想定内。「身体のケアが足りなかったわけではない」としながら、「予測していなかった身体の反応が直せなかった」と、昨年までとは違う身体の変化に対応しきれなかったことを悔やむ。
さらに、投げたい想いが強い一方、「結果が出ないのでチャンスがもらえない。焦りと不安でメンタルの維持も難しかった」と、心身両面での悪循環に陥った。
見えてきた一筋の光
その中でも砂田は前を向く。「忘れていた自分を取り戻さなければ」と、柔軟性を増すためのエクササイズを積極的に取り入れ、試行錯誤を繰り返した。その結果、徐々に違和感が消えていく。するとシーズン終盤、9月10日に一軍から声がかかる。結果は残せなかったが「“感覚”は良かった。狙っていいボールが投げられました。結果がついてこなかったことは悔しかったですが…」と振り返りつつ、暗闇の中で一筋の光を感じ取れたことを明かした。
「結果を出し続ける大変さ」を感じた1年。苦しんだことで「昨日の自分より今日の自分。日々進化していかないと、結果は残せない。自分で客観的に“砂田毅樹”を色々な視点から見て、体力のアップや(投球の)引き出しを増やす」と、育成から這い上がってきた苦労人は、自らの成長のために必要な事項を明確にリストアップ。秋季キャンプでは全体練習のあとに、室内のブルペンで汗を流す姿も見られた。
今シーズンのベイスターズは、中継ぎ左腕の駒不足に悩まされた。結果的に、エスコバーの連投、2年目・櫻井周斗の奮闘、先発だった石田健大のブルペン待機策などで凌いだ印象がある。砂田の不調により、当初のプランに綻びが見えたことは否めない。「砂田がいれば…」と思うシーンは数多く見受けられた。
チームに貢献するために「新たな砂田毅樹を作る」。そう宣言した砂田の目からは、不安や焦りの色が消し去られていた。暗闇から抜け出した左腕は、今年の苦しみを糧に、来季はよりスケールアップした姿をマウンド上で魅せてくれることだろう。
取材・文=萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)