コラム

中日・根尾昂の外野挑戦に思うこと【白球つれづれ】

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9月29日の阪神戦、7回に遊撃の守備に就きプロ初出場を果たした中日・根尾

白球つれづれ2019~第47回・“金の卵”の扱い方


 “金の卵”。前途有望な新人選手に使われる球界の常套句だ。

 中日の根尾昂が、沖縄で行われた秋季キャンプから外野手に挑戦している。わずか1年前は大阪桐蔭高の全国大会春夏連覇に貢献。同校の藤原恭大(ロッテ)、報徳学園・小園海斗(広島)と共に「高校野手ビッグ3」と騒がれて鳴り物入りで入団した、文字通りの“金の卵”だった。

 特に根尾の場合は、高校時代に投手、内野手、外野手の“三刀流”として、大谷翔平の再来と騒がれた経緯がある。中日入りの際には、それも封印して「ショート一本」で精進すると宣言したのだから、突然の外野挑戦には違和感がある。

 プロ入りを前にして根尾は、「ショートはすべてのプレーに関わるポジション。チームの顔であり花形。憧れの場所です」と語っていた。それほどまでに、こだわる場所を、いとも簡単に離れるのか? やはり1年目に直面した挫折と無縁ではないのだろう。


ビッグ3の2019年


 地元・岐阜出身で高校球界のスター。球団にとっても喉から手が出るほど欲しい人材だった。春季キャンプでは「根尾グッズ」が売れて、正遊撃手候補の京田陽太に二塁の練習をさせるほど期待は高まった。しかし、現実は甘くない。まず、1月の合同自主トレの際に右ふくらはぎの肉離れを起こして出遅れる。さらに追い打ちをかけるように、4月のウエスタンリーグ阪神戦で守備の際に左手指をスパイクされて戦列離脱を余儀なくされた。

 出遅れを取り戻せないまま、一軍からお呼びがかかったのは9月も下旬になってから。9月29日の阪神戦でプロデビューを果たすが、結果は3球三振、翌日も三振に倒れて根尾の1年目はあっけなく終わった。

 ちなみに「ビッグ3」の1年目を振り返ってみると、藤原は開幕を一軍で迎え、開幕戦に「一番・中堅」で先発して鮮烈デビューを果たすが、一軍出場は6試合に止まり、打率も「.105」と根尾同様、プロの壁にぶち当たっている。その中で最も活躍したのが小園だ。レギュラー格の田中広輔が極度の不振に陥った事情があるにせよ、俊足堅守で58試合に出場。打率は「.213」ながら4本塁打、16打点は2年目に希望を見出す働きだろう。


選手とチームの事情


 そんな中で根尾は外野挑戦の狙いを説明する。

 「外野の動きは内野でも生かすことができるし、自分にとってプラス。一軍で出る機会が少しでも広がるのであれば続けていきたい」。そこにはチーム事情が反映していることも確かである。根尾の入団時に内野陣は必ずしも盤石ではなかった。一塁・ビシエドは不動でも、三塁の高橋周平や遊撃の京田もフルに働いたのは数年程度。二塁にも不安があった。しかし、シーズンが始まると高橋、京田が共に大活躍、二塁には阿部寿樹が定着し、ほぼ不動の形が出来上がった。控えには、どこでも守れる堂上直倫もいる。

 これに対して、外野陣は平田良介の故障もあって中堅の大島洋平以外は猫の目の状態が続く。そこに輪をかけて?元監督の落合博満が「大島の動きも年々落ちている。そういうことを考えると根尾(の中堅コンバート)が一番いい」と早くから外野手・根尾の起用を唱えている。なるほど、今季の成績をベースに考えたとき、来季もよほどのことがない限り根尾が京田に代わってショートを守っている確率は少ない。試合に出たい根尾と外野に厚みを持たせたいチームの思惑は一致する。

 しかし、次代のスーパースター候補をこの程度の理由で簡単にコンバートすることが両者にとってもいいことなのだろうか? 将来的にミスタードラゴンズと呼ばれた立浪和義の後継者に育てるなら、仮にもう1年ファームにいようが、徹底して遊撃手として育てる方が王道ではある。

 元巨人の松井秀喜や広島の鈴木誠也も内野から外野にコンバートされて大成した選手だ。しかし、彼らは外野手として育てるというチームの信念のもとで成長してきた。根尾の場合、どこを守ってもそつなくこなすだろう。だからこそ「器用貧乏」にはなって欲しくない。“金の卵”とは、それくらいの矜持を持って2年目の荒波に立ち向かってほしいものだ。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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