白球つれづれ2019~第48回・野球人・清原和博
あのイチロー(さん?)が草野球に興じた。12月1日に神戸で行われた智弁和歌山教職員チームとの親善試合。相手に敬意を表して「神戸CHIBEN」の一員として「9番・投手」で二刀流に挑戦すると、打っては4打数3安打、投げては16奪三振の完封と役者の違いを見せつけた。「すごく楽しかった」と白球の申し子の顔に笑顔が溢れた。
その頃、東京の八王子では、清原和博氏の頬に涙がつたった。悔恨の涙ではなく、久々に仲間たちの温かい心に触れた感謝の涙だった。
ここへきて、清原の露出が増えている。11月30日には神宮球場で「World Tryout 2019」という名の公開トライアウトが行われて、実戦形式の指揮を執る監督を務めた。これに相前後する形で、沖縄や前述の八王子で野球教室が開催されている。
清原が泣いたのは野球教室の終了後のこと。元楽天監督の大久保博元らが特製のTシャツをプレゼント、背中には「まだまだ若々しく元気でいろよ!絶対負けんな!」などの文字が躍っている。愛息2人からのメッセージだった。前夫人と離婚後、息子たちと会うことも難しく、月に1~2度野球を教えるのが最大の楽しみとなっている。その子供たちから励まされ、「たくさんの仲間たちとファンの方々、息子たちのためにも頑張っていきたい」と声を震わせた。
過ちの先に…
2016年2月に覚醒剤取締法違反で現行犯逮捕。その年の5月には懲役2年6カ月、執行猶予4年の有罪判決が下された。正式に刑が明けるのはあと半年余り先だ。球界のスーパースターの転落劇は社会全体に大きな衝撃を与えた。最近でも女優の沢尻エリカに、元タレントの田代まさしが薬物所持で逮捕されている。そのたびに清原の名前が再び取り上げられる。
特に田代のケースのように覚醒剤は常習性が強く、再犯の可能性も高いと言われる。清原自身も自著「告白」の中で、日々の格闘の様子を綴っている。ある日突然、薬の幻覚や衝動に悩まされることもあるという。
久々に身につけたユニホーム姿は、決してカッコいいとは言えない。現役時代より腹部の厚みは増している。おそらく日陰の身として自宅に閉じこもっているので運動不足なのだろう。しかし、それ以外の明るい変化も見えた。以前は焦点の定まらないように濁っていた眼が澄んでいる。自分の意思が目に宿っているように見えた。
一連のイベントと前後して、マスコミのインタビューにも応じ始めた。中でも宮根誠司の質問に答える内容はこれまでの壮絶な闘いを物語っている。
「自宅には、過去の逮捕された時の記事や写真を貼ってあります。二度と同じ過ちを繰り返さないように戒めるため」
「自分はこれまで勝負に負けたことがなかった。でも薬物には負けてしまった。二度は負けられないんです」
今回の現場復帰には大久保だけでなく親友の佐々木主浩やPL学園時代の後輩である立浪和義、宮本慎也、野村弘樹各氏らのサポートがある。World Tryout社のCEOである加治佐平氏のバックアップも大きい。犯した罪は重くても更生が果たされたなら本格的に球界復帰の道が開けてもおかしくない。
「それは自分の胸に秘めていくもの。世間の皆様がお許しになるまで自分の口からは何も言えない」と清原の薬物依存から脱却の闘いはこれからも続く。八王子で流した涙を無駄にしてはならない。1年後、2年後、野球人・清原和博はどんな位置にいるのだろうか?
文=荒川和夫(あわかわ・かずお)