先発投手の力だけではないものの…
「10勝っても10負けるというレッテル(を貼られている)じゃないけど、自分でも実際そう思っている」。
今季セ・リーグの最優秀防御率に輝いた中日の大野雄大が、このオフに出演したテレビ番組でこんなことを言っていた。そこで、今季掲げる目標は「2年連続の最優秀防御率」と「貯金15」。自身も気にする世間のイメージからの脱却を目指す。
ファンのあいだでも、若干の諦念と揶揄を込めて「10勝しても10敗する」と言われる投手は昔からいる。しかし、それだけの数字を挙げるとなると、シーズンを通してローテーションを守り、長いイニングを投げる必要がある。その点では大いに評価されるべきだろう。
また、そもそも勝利数は、打線や中継ぎ投手の出来にも左右されるため、投手個人の能力だけによるものではない。実際、球界を代表する投手・菅野智之(巨人)も、2016年には、最多奪三振と最優秀防御率の二冠を獲得しながら、打線の援護に恵まれなかったり、中継ぎ投手に勝ちを消されたりして、勝ち星は2桁に満たない9勝に終わった。
菅野のようなエース級の投手となると、他球団のエース級投手と投げ合うことになり、投球内容の割に勝利数は伸びないということもよく見られる。それでも、チームのエースと呼ばれる投手には、やはりエース対決を制しての貯金が期待されるもの。では、近年、もっとも貯金を残した投手は誰なのだろうか――。
下記は、2015年から今季までの過去5シーズンにおける、投手の「貯金ランキング」である。過去5シーズンにおいて1勝以上を挙げた投手計433人のなかから、5シーズンでの貯金の数を算出した。
▼ 直近5シーズン・投手の「貯金」ランキング
1位 「30」 千賀滉大(ソ)= 99試・53勝23敗・防2.79
2位 「27」 クリス・ジョンソン(広)= 118試・57勝30敗・防2.54
3位 「26」 菅野智之(巨)= 126試・62勝36敗・防2.22
4位 「24」 菊池雄星(西)= 94試・51勝27敗・防2.58
4位 「24」 リック・バンデンハーク(ソ)= 79試・41勝17敗・防3.50
6位 「18」 マイルズ・マイコラス(巨)= 62試・31勝13敗・防2.18
7位 「17」 大谷翔平(日)= 48試・28勝11敗・防2.15
8位 「16」 野村祐輔(広)= 103試・43勝27敗・防3.51
9位 「15」 大瀬良大地(広)=145試・42勝27敗・防3.22
9位 「15」 東浜 巨(ソ)= 77試・35勝20敗・防3.32
短期間で驚異的な数字
打線や中継ぎ投手など、チームの総合力も問われるだけに、貯金ベストテンにランクインした投手の所属球団は、いずれも過去5シーズンのうちにペナントレースを制しているチームだ。そのなかでトップとなったのは、千賀滉大(ソフトバンク)。過去5シーズンで一度も負け越しがなく、4度の2桁勝利を挙げる安定感で、ただひとり貯金30の大台に乗せた。
意外なところでは、菊池雄星(現米マリナーズ)、マイコラス(現米カージナルス)、大谷翔平(現米エンゼルス)の名前があることだろう。菊池は今季から、マイコラスと大谷は2018年からメジャーでプレーしており、それだけ登板試合数は限られているにもかかわらず、ベストテンにランクインした。彼らがいかにハイペースで貯金を積み重ねていたかがわかる。
なかでも大谷の数字は驚異的だ。二刀流の影響もあって、登板試合数は48にとどまったが、その一方で黒星もわずか11。防御率2.15、勝率.718は、いずれもトップテンの投手のなかでトップの成績である。
ちなみに、大野の過去5シーズンの数字は、102試合34勝39敗の借金5だった。2013年には田中将大(現米ヤンキース)が28試合24勝0敗という数字を残したが、このランキングを見ると、それはあくまでごく稀なケース。大野が掲げた1シーズンでの貯金15は、ちょっと現実的ではない目標かもしれない。
とはいえ、それだけの気持ちを持って来季に臨むということ。来季も、各球団のエース級投手同士がどんな戦いを見せるのか、注目したい。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)