日本では「虎」=「黄色と黒」だけど…
例年、6月になるとチーム自体の調子にかかわらず、阪神タイガースがスポーツ紙上を騒がせる。
チーム事情が芳しくない場合は余計に取り上げられ方も大きくなるのだが、この時期は、阪神タイガースの親会社である阪急阪神ホールディングスの株主総会があり、必ずと言っていいほど、個人投資家からタイガースについての意見が出てくるのだ。
その多くは、まるで自分がタイガースのオーナーになったかのような「改革案」で、中には居酒屋の与太話のようなものもあり、熱を帯びるペナントレースにあって、野球ファンにちょっとした“笑い”を提供してくれる。その中に、ファンを甲子園球場に運ぶ阪神電車の塗装についてのものがあった。
大阪のターミナル駅、梅田から甲子園を経由して神戸へ向かう特急電車の塗装は上半分がクリーム色で、下半分がオレンジ色なのだが、これに虎キチの株主が物申した。「阪神の特急電車にどうして宿敵ジャイアンツのチームカラーが採用されているのだ。けしからん」と。
日本では、オレンジ色と言えば巨人の色と相場が決まっている。対する阪神タイガースのチームカラーはもちろん黄色だ。あの甲子園の大スタンドが7回裏の攻撃前にジェット風船で黄色に染まる様は世界中に知れ渡っている名物シーンのひとつといっていい。
しかし、改めて実物の虎を見てみよう。あの独特の縞模様をかたちづくっているのは、果たして黄色だろうか?
世界のタイガーカラー事情
虎、タイガーというのは、野球界では百獣の王ライオンと双璧をなす人気で、世界中の野球チームのニックネームとして採用されている。もともと阪神球団のニックネームも、球団創設当時、日本一の工業都市であった大阪をフランチャイズにするということで、アメリカ随一の工業都市だったデトロイトに本拠を置くタイガースから借用したものだ。
現在、デトロイト・タイガースはメジャー球団の他、マイナーの2球団(ただしそのひとつは「タイガース」の前に「フライング」がついている)も「タイガース」を名乗っている。その3球団とも、チームカラーはオレンジだ。
デトロイト・タイガースのマスコット「パウス」
阪神ファンからすれば、よりによってなんという色を選んだんだと思うだろうが、実は、アメリカでは虎の色は黄色ではなく、オレンジ色として認識されている。確かに、実際の虎の写真を見ると、黄色よりオレンジに近いかもしれない。メキシカンリーグにも、キンタナロー・タイガースというチームがあるが、このチームのチームカラーもオレンジだ。
メキシカンリーグの名門、キンタナロー・タイガース。見ての通りユニフォームはオレンジ色
ラテンアメリカにはほかに、ウインターリーグのチームとして、4つのタイガースある。キューバのシエゴデアビラ・タイガースもやはりオレンジ色をチームカラーにしているが、ベネズエラとコロンビアのタイガース(スペイン語ではティグレス)のチームカラーはなぜか赤である。
コロンビアのカルタヘナ・タイガース。チームカラーはなぜか赤。
また、カリビアンシリーズ優勝10回を誇るドミニカの名門、リセイもタイガースをニックネームにしているが、ここは虎とはなんの縁のない青色がチームカラー。そもそも地元ファンも、このチームを「ティグレス」とニックネームを呼ぶことはなく、上の名前の「リセイ」で呼んでいる。そういうこともあって、このチームはユニフォームなどにも虎のロゴが入っていない。
ドミニカの名門リセイ・タイガース。見た感じはブルー。写真は日本でもプレーしたペーニャ
来年のオリンピックには、前回のWBCで突如として現れたイスラエルが出場するが、この中東の国にも、かつて2007年の1シーズンだけプロ野球リーグが存在した。このリーグにも「ネタニア・タイガース」というチームがあったが、このチームのチームカラーもオレンジ。ユニフォームは阪神ファンが見れば卒倒するようなオレンジを全面に押し出したものだった。
イスラエルのネタニア・タイガース。帽子のロゴはヘブライ語のアルファベッドと虎の足跡。ユニフォームはもちろんオレンジ
アジアも黄色から…
「虎の色は黄色」というのは、どうもアジア文化圏の話のようだ。かつて台湾にあった「三商タイガース」のチームカラーは黄色だった。しかし、メインは青色だったようで、そのユニフォームには虎のマスコットのロゴは入っていたものの、黄色より青が目立っていた。
中国にもタイガースはある。2002年に発足した国内リーグで優勝5回を誇っていた北京タイガースも黄色をチームカラーにしていた。今年、この国のトップリーグは本格的なプロリーグとしてCNBLという新リーグに改組されたが、北京タイガースは同時にチームのロゴも一新した。そして現在、チームカラーはオレンジ色に改められている。この新リーグはアメリカ・MLBの支援も受けているようなので、やはりトラの色もアメリカ流に改められたようだ。
近年、野球の世界でも国際試合は増えているが、一度、世界中のタイガースを集めて「タイガース・カップ」などやってみるのも面白いのではないか。日本で開催すれば、世界中のトラキチたちは、「本場」、阪神の大応援団に度肝を抜かれるに違いないだろう。
などと、ゲームのないオフを実現もしないだろうシリーズに想像をたくましくするのをストーブリーグというのだが、そのストーブの炎の色もトラキチたちにはオレンジではなく、黄色に見えるのかもしれない。
文=阿佐智(あさ・さとし)