第3回:本塁打の行方
DeNAの主砲・筒香嘉智の大リーグ、レイズ入団が決まった。長距離の期待できる日本人野手としてはヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏以来となる。現地では早くも「3割30本塁打」を期待する声が上がるなど筒香人気は上々だ。
松井に比べて、日本での実績では劣るがプラス材料もある。ひとつは早くから中南米のウィンターリーグに挑戦して、メジャー投手の主流である「動くボール」への対策として左方向への本塁打のコツを習得していること。手元までボールを引き付けて逆方向に飛ばせば安打になる確率は間違いなく上がる。そして、もうひとつは今季のメジャーで話題となったホームラン急増である。
先頃まで行われていたメジャーリーグのウインターミーティング。野球関係者が一堂に会してトレードから労使間の問題、さらには野球そのものの在り方についてまで幅広く話し合われている。その中で今年、注目を集めたのは本塁打激増に関する調査委員会が開かれたことだ。
今季、メジャーリーグの本塁打総数は6776本。これは前年比1191本増という目をみはる数字である。同委員会には「飛ぶボール」疑惑の製造元であるローリング社はもとより物理学者や統計学者までが招集されて、異常事態の検証がされたという。
その結果、ボールそのものに構造上の大きな変化はなく、近年多くの打者が打球の角度とスピードを追及する「フライボール革命」が主たる因と結論付けた。だが、これで一件落着かと言えば、そう簡単ではない。投手側の立場に立てば、作られた“打高投低”なら死活問題。他にも投手側からはスライダー、カーブと言った変化球の曲がりが以前より大きくなっている、との証言もある。
金字塔が崩される日も!?
ホームランは「野球の華」と昔から言われる。メジャーでは2000年代初頭の頃、筋肉増強剤や違反薬物が乱用された「負の歴史」がある。薬漬けの長距離砲は追放される一方で、近年は深刻なファンの野球離れが指摘されている。こうした背景をもとにホームラン量産が作られたとしたら糾弾されるべきだろう。さて、筒香が来季、急増ホームランの恩恵に浴せるのか? も注目ポイントのひとつとなる。
メジャーの風が必ず数年後には伝播する日本球界。実は2年ほど前から国内でも関係者の間では「やけにボールが飛ぶ」とささやかれている。そこで今季のセパ両リーグの本塁打の動向を調べてみた。
セ・リーグは前年825本に対して今季は837本。パ・リーグは同じく856本に対して851本。微増のセに比べてパは微減で大きな変化は見られない。12球団で最も本塁打が増えたのはロッテで昨季はワーストの78本のチーム本塁打が今季は倍増の158本塁打と驚異的に数字を伸ばしている。
ただし、これは今年から新設された「ホームランラグーン」と呼ばれるスタンドの影響と戦略室の充実で相手投手の研究や狙い球を絞る打撃が功を奏したからと解釈できる。
世界の本塁打王と言えば、現ソフトバンク球団会長の王貞治氏。868本の本塁打記録は不滅の金字塔だ。先日、その王さんにホームランと野球の変質について話を伺う機会があった。
「名球会を見ても新しく入って来るのは打者ばかり、(入会資格である)投手の200勝なんて今後は難しい。カネさん(金田正一氏)の400勝は今後も破られることはないけど、868本はどうかな? 野球の質自体が変わってきているからね」
もちろん、半分は謙遜だとしてもヤクルトの村上宗隆は19歳で36本のアーチを量産している。このペースのまま打ち続ければあと24~5年で夢の数字に到達することも可能だ。筋トレの充実、日本版の「フライボール革命」が進めば野球そのものが変質していっても不思議ではない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)