短期連載:2020年の野球を考える
東京五輪イヤーの幕が開けた。野球界にとっても侍ジャパンの金メダル奪取が成るか? 例年とはまた違う興味の増す年だ。
一方で、五輪の話題で盛り上がる中でペナントレースはいつも通りの活況を呈するのか? 野球人口の減少が問題となり、高校野球では様々な変革に取り組んでいる。今年も筒香嘉智、秋山翔吾、山口俊選手らのメジャー移籍が話題を呼ぶ中で「国技」とも言うべき野球はどう変わっていくのか? 気になる話題とその核心に迫ってみる。
第1回:東京五輪の余波
まず日程を見ると、両リーグの開幕は昨年の3月29日から1週間以上早くなって3月20日。さらに五輪たけなわの7月21日から8月13日まではペナントレースを中断する。こうした変則日程の余波で日本シリーズも昨年は10月19日に開幕したが、今年は11月7日開幕で発表されている。
「五輪イヤー」は様々な対応が迫られる。すでに各選手の自主トレは花盛りだが、例年以上にハイピッチなのが特徴だ。わずか9日、開幕が早まっただけとはいえ、そこに最初のピークを持っていくためには自主トレ、キャンプから例年以上の速さで仕上げていかなければならない。細かく言えば、チームプレーやサインの確認などの作業も早まっていく。
侍ジャパンの候補選手にとっても「開幕ダッシュ」は必須条件。特に当落線上にいる戦士は、稲葉篤紀監督ら首脳陣にアピールする必要がある。最終メンバー発表予定の6月までが勝負だ。
各チームの首脳陣にも例年とは違う戦い方が求められる。いつもなら143試合の長丁場として組み立てていくが、今年の場合は3週間近くの五輪ブレークがある。つまり、開幕から五輪ブレークの前と後で2つのペナントレースがあるようなものだ。
陸上競技に例えれば、マラソンが中距離走に代わるようなもの。開幕直後から猛ダッシュを見せて息切れしても7月中旬まで持ちこたえれば、五輪ブレーク中にミニキャンプなどで再調整が効く。この変則日程をうまく乗り切ったチームが秋に笑うのは間違いない。
内弁慶なベイスターズ
五輪の余波という観点から最も気になるのはDeNAベイスターズだ。「東京」と冠都市の名前がついているが、野球とソフトボールの主会場となるのは横浜。東日本大震災からの復興五輪でもあり、開幕は福島のあづま球場で迎えるが、ソフトボールは7月28日、野球は8月8日にそれぞれ決勝が横浜スタジアムで行われる。
球場及び周辺の開催準備もあってベイスターズが本拠地で戦う前半戦は6月7日の対ロッテ交流戦が最後。ここから「死のロード」が始まる。交流戦のビジターからリーグ戦再開後もロードまたロードゲーム。6月30日からホームで中日戦を戦うが開催球場は東京ドーム。7月、8月に入って2度のホームゲームも千葉のZOZOマリンを借りたり、新潟転戦と移動は続く。ようやく横浜に戻れるのは8月25日の広島戦だから、約2カ月半のさすらいの旅となる。
地元や球団関係者も「国家的行事に貢献できるのだから光栄なこと」と五輪野球の横浜開催に異存はないが、ベイスターズのチーム事情だけを見れば気になる材料がある。それは“内弁慶”体質だ。
昨年は71勝69敗3分けの成績でリーグ2位の成績を残したが、最大の泣き所がビジターゲームにからきし弱いこと。地方1試合を含めたホームでは43勝28敗1分けとセ・リーグで唯一勝率6割を超えながら、ビジターでは28勝41敗2分けと借金の山を築いた。ハマ風と熱烈応援に乗ったものの、ビジターではエースの今永昇太以外は通用しない投手陣の脆さが要因のようだ。
「データ魔」で知られるラミレス監督が、この嫌なデータを知らないわけがない。例年以上に横浜から離れるベイスターズが“内弁慶”を解消できるのか?
看板スターであり、チームの大黒柱でもあった筒香嘉智がメジャー(レイズ)に渡り、戦力ダウンも心配されるが、その穴は新外国人のT・オースチンや若手の成長に賭ける。五輪による試練を乗り切った時、チームは逞しい軍団に生まれ変われるはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)