第2回:選手間交流の活性化
ソフトバンクの「熱男」こと松田宣浩選手がグアムで行う自主トレを公開した。まず、驚いたのはそこに参加した顔ぶれ。チームの同僚である牧原大成と水谷瞬の両選手はともかく、DeNAから宮崎敏郎、佐野恵太、嶺井博希の3選手に、西武の山田遥楓選手やオリックス・頓宮裕真選手の顔もある。「多国籍軍団」と言った様相だ。
このうち、嶺井と頓宮は松田が在籍した亜大の後輩、首位打者の経験もある宮崎は「あれだけのベテランの方が、どういう考えで(トレーニングを)やられているのか気になった」と志願の初参加。山田は西武の一員でありながら「熱男マニア」を公言するほどの憧れの存在で元気の源を吸収するために弟子入りを続けている。
自主トレは今が花盛り、近年は松田の例を引くまでもなく複数球団の選手が集まって汗することが珍しくない。スポーツ紙などで報じられる顔ぶれを見ても、その組み合わせは興味深い。
代表格は阪神・糸井嘉男、オリックス・吉田正尚両選手の「マッチョコンビ」。今年は日本ハムから西川遥輝選手も加わった。今オフにもポスティングによるメジャー挑戦を希望した西川と言えば、俊足好打には定評があるものの、MLBを意識した時にパワー不足が気になるところ。そこでマッチョマンたちの筋肉づくりに密着となった。
ハワイで巨人の若手たちと鍛えた菅野智之投手は、帰国後にソフトバンクの千賀滉大投手、さらに東京五輪ソフトボールの絶対エースである上野由岐子選手と豪華自主トレを開くことが報じられている。日本球界の二大エースとソフト界の至宝がどんなトレーニングをして、どんな会話を交わすのか興味は尽きない。
DeNAの大黒柱である今永昇太の下には、ヤクルトから寺島成輝、広島から高橋樹也、ロッテから中村稔弥の各投手が集まった。この4人はいずれも左腕で、今永以外は一軍定着が期待される立場だ。そこで「チーム・サウスポー」を編成して今永から投球の極意を学ぶ。
その他にも、巨人の岡本和真選手は西武の中村剛也選手に弟子入りして本塁打量産の秘訣を吸収。ソフトバンクの和田毅と中日・山井大介両投手の「おやじコンビトレ」や、ロッテに移籍した美馬学(169センチ)と西武の野田昇吾(167センチ)両投手の「小兵トレ」などは、それぞれの悩みと克服法を語り合っているのだろう。
変わるもの変わらないもの
時代が変われば、鍛錬の仕方や選手間の交流の仕方も変わる。だが、今風の“仲良しトレ”に首を傾げるむきもある。正月の日刊スポーツ紙面では、前ヤクルトヘッドコーチの宮本慎也氏と前巨人の上原浩治氏が警鐘を鳴らしている。
「侍(ジャパン)の試合が多すぎると、みんなが仲良くなりすぎる。そうなると試合の緊張感がなくなってくる」と上原氏が語れば、宮本氏も「普段は仲良くしてもグラウンドに出たら関係ないっていうのが理想」と答える。元巨人の中畑清氏も別の席で「試合になれば真剣勝負、みんな仲良くトレーニングもいいが、出来る事なら見えないところでやってもらいたいね」と最近の風潮に釘を刺す。
シーズンに入っても、近年は練習中に両軍の選手が会話を弾ませている光景は珍しくない。試合中の私語は禁じられているにもかかわらず、塁上でのおしゃべりもよく見る光景だ。かつて、野球界の自主トレと言えば長嶋茂雄(巨人)や石毛宏典(西武)らのスター選手は伊豆の山にこもって鍛錬に明け暮れた。
練習パートナーはいても、あくまで自己と向き合う単独トレーニングだった。しかし、時代とともに、こうした風景も変質していく。今では学校の先輩後輩関係だけでなく、選手会行事やオフのテレビ出演などで顔を合わせる機会が多くなれば仲間の輪も広がる。
「仲良しトレ」を一概に否定するわけではない。他球団の主力の技や経験談を生かすメリットはある。だが、一時代前の選手は自軍であっても技術やトレーニング法さえ教えないことが当たり前だった。教えた選手が好成績を上げれば自分のレギュラーの座を奪われかねないからだ。プロとはそれくらい厳しい世界である。
この時期の和気藹々は結構、しかし、シーズンに入ったら目の色を変えた勝負が見たい。いつの世も感動、興奮はそこからしか生まれない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)