白球つれづれ2020~第6回・新たな盟主へ
「一軍のチームが二つ、三つ出来るくらい選手層が厚い!」今季から球団会長付特別アドバイザーに就任した城島健司氏が“我がチーム”ソフトバンクに目を丸くした。2月上旬に掲載された地元紙・西日本スポーツのインタビューに答え、こうも続ける。
「これだけの選手が競い合っていれば、手を抜いたり元気が無かったりすると、おのずと生き残れない。全力疾走していないと置いていかれる。そうなると自然と活気が出る。いい伝統というか、いい循環をしていますよね」
その城島自身も宮崎キャンプ初日にいきなり王貞治球団会長から大目玉を食らった。「自分の色を出そうかと」ジーパン着用でグラウンドに現れると王さんの逆鱗に触れた。「立場と場所をわきまえろ」と言う事である。79歳の会長が43歳の愛弟子を叱責したので、周りもびっくりして凍り付いたと言う。謹厳実直な「王イズム」はソフトバンクのバックボーンでもある。
巨大戦力と熾烈な競争
この10年間で6度の日本一。今や巨人を凌ぐ新盟主と言ってもいい。昨年の日本シリーズではその巨人を4タテで下し、原辰徳監督を屈辱の底に突き落とした。リーグ戦こそ、2年連続で西武の後塵を拝したが、今年も日本一の大本命は揺るがない。
その鷹軍団に死角を探すとすれば、近年目につく故障者の多さだろう。昨年は絶対的守護神のD.サファテから東浜巨、和田毅、石川柊汰らの投手に、野手では柳田悠岐や今宮健太選手らの主力が次々と戦列離脱、ようやくシーズン終盤に戦力が整ってシリーズ進出を果たしている。
今季もまた、春先から故障者情報は多い。エースの千賀滉大は自主トレ中に右ふくらはぎに違和感を訴えてキャンプ序盤は別メニュー調整。昨年ブレークした椎野新投手は右肩痛、4年前のドラフト1位・田中正義投手は右ヒジ痛、さらに今季ドラフト2位入団の海野隆司選手も右ヒジ痛でリハビリ組に回された。
柳田にしても、昨年オフに右ヒジのクリーニング手術を受けたばかりで本調子までには、もう少し時間がかかるだろう。普通のチームなら首脳陣も頭を抱えるところだが、城島氏曰くの「巨大戦力」と激烈なチーム内競争がそんな不安を吹き飛ばしてしまうのだ。
台頭し続ける新戦力
今キャンプだけでも他球団スコアラーに衝撃が走るほどの逸材がズラリいる。2年前のドラフト2位・杉山一樹投手は、自主トレを共にした千賀が「群を抜いて凄い」と手放しで絶賛した最速157キロ腕。また4年目の古谷優人投手も今季のブレークが期待される左腕で昨年のファームでは160キロの快速球を記録している。
野手に目を転じても、育成の砂川リチャード選手は王会長もその飛距離に注目する次代の大砲。競争が激しいから故障者も出るが、その分だけ次を狙う候補も目白押しだ。もう一人、今季からソフトバンクの一員に加わったのが平石洋介打撃兼野手総合コーチ。楽天の監督からライバルチームに移ってどんな印象を持ったのか?
「一軍から三軍までの選手、スタッフの多さと熱量の高さに感心しました。昨年も相手ベンチから見ていて、練習の段階から声出し、動きと全員が整っていて戦う準備が出来ているチームだと思いました」とインタビューで語っている。
内川聖一、松田宣浩両選手に代表されるベテランが、練習でも手を抜かず、ベンチでも一番大きな声を張り上げる。そんな絶対的なチームリーダーすら不調なら試合からはじかれる。
孫正義オーナーの厳命は4年連続の日本一。毎年のように巨大な投資と環境を作り上げてきた王国の牙城は、そう簡単には崩れそうにない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)