白球つれづれ2020~第7回・「平成の怪物」復活なるか
球界のご意見番、張本勲氏がまたかみついた。ロッテの佐々木朗希投手をマスコミが「令和の怪物」と囃し立てるのが気に入らないようだ。
「まだ、プロで1球も投げていないのに何で怪物なのよ。周囲が騒ぎすぎだ」。
確かにブルペンでは素晴らしい素材を実証しても、ペナントレースで投げたわけではない。おっしゃる意味は重々承知しているが、それだけファンがニュースターの誕生を熱望している期待の表れとご容赦願いたい。
さて、それでは「平成の怪物」と称された西武の松坂大輔投手の場合はどうか? 14年ぶりの古巣復帰にキャンプ地の宮崎・南郷は沸き立っている。球団が第2クール終了時点で発表した来場者は前年の1万3600人から倍増の2万8400人、グッズの売り上げも同年比203%で、そのうち2割近くを松坂関連で占めていると言う。
昨年まで在籍した中日でも1年目にはグッズの売り上げだけで当時の年俸1500万円を軽くクリア。球団関係者のホクホク顔が忘れられない。だが、人気面では依然として怪物の片鱗を残すものの、実力の衰えは隠せない。かつて、メジャー時代に最高で10億円以上稼いだ年俸が今季は3000万円からのスタート。それが現実である。
その「元怪物」が飛ばしている。元気だ。
キャンプ第1クールの2月3日に初めてブルペンでの投球を開始すると、第2クールでは早くも投球数は100球を超えて翌日も連投するなど、16日時点でブルペン入りは7度を数えている。中日時代の昨年はキャンプ序盤でファンに接触した際、右肩に異常を起こし、8月には右肘炎症で手術をするなど、まったく投球らしい投球が出来なかったことを考えれば久々の朗報と言っていい。
辻発彦監督や渡辺久信GMらチーム首脳陣が「あんなに投げて大丈夫?」と半ば心配するほどのハイペース調整だが、松坂本人は手ごたえを感じている。中日時代の監督であり恩師でもある森繁和氏(現評論家)には「2年前より状態ははるかにいいです」と語っている。
一軍定着と先発ローテ入りへの期待
この数年、松坂の投球フォームを見ると右肘は全盛期より大きく下がり、上半身に頼る手投げの印象を受けていた。それが今季は肘の位置も若干だが上がり、下半身から始動するから腕も振れる。したがって回転のいい、力強い投球が出来ているのだ。森氏が指摘するのはマウンドでの立ち姿の良さと表情の明るさ。それだけ肩、肘の状態がいいのだろうと指摘する。
近年にない、上々の滑り出しをみせた松坂。となればファンの夢は一軍定着から先発ローテーション入りへと膨らんでいく。しかし、その前にはまだ高いハードルが待ち受けているのも確かだ。ブルペンでの本格投球の次は自軍のフリー打撃や紅白戦に登板、それをクリアしたうえでオープン戦の仕上がり具合がカギとなる。肩肘の不安も一掃されたわけではない。
「かつての自分の投球を期待されても、正直なところ難しい。今はどんな形であれチームの戦力となって貢献したい」。150キロ越えを誇った速球は影を潜め、今はカットボールやチェンジアップで打ち取る技巧派に活路を求めている。
西武の今季先発陣を予想すると、昨年12勝1敗で大黒柱となったZ.ニール以下、高橋光成、今井達也、松本航の4投手までが当確ラインか。残る2枠を十亀剣、本田圭佑に新外国人のS.ノリン、ドラフト1位の宮川哲、そして松坂の5投手らが争う形。まだまだサバイバル戦は続く。
そんな中で辻監督の最近の発言が興味深い。
「うちの打線は攻撃力があるし、投手が5回を2~3点に抑えてくれれば、かなりの確率で逆転する自信がある」。昨年のチーム防御率はリーグワーストの4.35。つまり1試合4点以上取られてもリーグ優勝を果たしているのだ。この辻発言は多分に松坂の一軍先発を想定したものと見られる。
中日時代の一昨年は6勝をあげてカムバック賞を受賞。その時より状態がいいなら期待度は上がる。実績、スター性、人懐っこい笑顔。39歳の今も人気は高い。チームにとってもこれほどの生きた教材はいない。
リーグ3連覇のキーマンとなれるか? 松坂にとってまずは3月が正念場となる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)