2020.03.01 13:00 | ||||
北海道日本ハムファイターズ | 7 | 終了 | 3 | オリックス・バファローズ |
札幌ドーム |
白球つれづれ2020~第9回・T-岡田の決断
1メートル87、100キロの巨体から放たれる放物線は、まさに「和製大砲」の代名詞だった。西武の山川穂高選手ではなく、ヤクルトの村上宗隆選手でもない。
「だった」という過去形が寂しい。オリックスのT-岡田選手が背水のシーズンを迎える。かつての怪物も、気が付けばプロ15年目の32歳。2010年に22歳の若さで本塁打王に輝いてから10年目の春である。
先月29日に札幌ドームで行われた日本ハムとのオープン戦で待望のチーム1号を放った。相手エース・有原航平のカットボールを無観客の右翼席にドカン! 歓声はなくても確かな手ごたえが残った。2月の紅白戦、韓国・斗山との練習試合に続くアーチ量産は首脳陣にも「このまま復活して欲しい」(福良淳一GM)と夢を抱かせる打撃だった。
昨年オフ、T-岡田の周辺はあわただしいものとなっている。一昨年に次ぐ打撃不振は深刻で、一軍の試合出場はわずかに20試合。自慢の長打力も発揮する場がなく本塁打は1本だけ。惨憺たる成績に終わった。
3年契約の最終年、FAの資格も取得して行使するか? 心は揺れた。思わぬ出来事が残留を決意する決め手となる。最終戦は母校・履正社高の先輩でもある岸田護投手の引退試合とあって、岡田も二軍から緊急招集された。佐竹学外野守備走塁コーチの配慮と提案だったという。この試合で代打出場した岡田にファンから熱い声援が送られる。その熱気がチーム残留の決め手となった。
もっとも新たに結んだ契約は1億5000万円から減額制限いっぱい、40%減の9000万円にダウン(プラス出来高の3年契約)という厳しいもの。それでも今はチームに骨をうずめる覚悟だ。今季を前にして昨年オフには中南米・プエルトリコのウィンターリーグに挑戦している。なりふり構わず、一からのスタートを行動で示した。
試行錯誤の末に迎えた15年目
リーグを代表するスラッガーは、なぜここまで転落していったのか? 左太ももの肉離れ、腰痛、アキレス腱痛など毎年のように故障に泣かされたのも事実だが、それよりも大きな要因は本塁打王の残像を追い求めた末の試行錯誤だろう。
「いろいろな失敗を繰り返す中で怖さを知っただけ考えてしまう部分もあった」と岡田は言う。投手との「間」を取るステップだけでもすり足にしたり一本足にしたりと試行錯誤。打ちに行く段階でも「強く叩こうとしてバットが投手側に入りすぎていた」ためヘッドが出てこない。加えてチーム打撃を心掛けようと本塁打より「100打点、100四球」を公言するなど、本来の打撃を見失う迷走が続いていた。
そんなT-岡田が今季、取り組んでいるのが確立を上げるためのコンパクト打法だ。テークバックを小さくして手元までボールを引きつけて叩く。プエルトリコで動くボールを多投する外国人投手に対峙して開眼したという。
最下位からの脱却と逆襲を狙うチームの最大の懸案は「投高打低」のチームバランスをいかに立て直すか。最優秀防御率の山本由伸、勝率1位の山岡泰輔の両タイトル投手を擁しながら打率はリーグ最低、23試合連続一桁安打という不名誉な数字も残した。一にも二にも打棒の向上しかない。
そんな貧打線解消の切り札としてメジャーで282本塁打の実績を誇る超大物A.ジョーンズ選手が入団した。もし額面通りの働きを見せれば、吉田正尚選手もいる。昨年途中に中日から移籍したS.モヤ選手にも期待が持てる。ここへ、T-岡田が復活したら間違いなく破壊力抜群の強力打線が出来上がる。
「ここまで僕のことを必要と言ってくれたファンや球団のためにも、体がボロボロになって潰れてもいいくらいの気持ちでこの1年をやっていきたい」。
忘れ去られた本塁打王。10年ぶりの復活となれば、球史に残るドラマとして記録されるはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)