突然の覚醒?!
人生はちょっとしたキッカケで、好転することがある。それはどの分野にも共通して言えることかもしれない。
長野の松本第一高校から2014年のドラフトで6位指名を受けて横浜DeNAベイスターズに入団した百瀬大騎。俊足と高い身体能力が武器の内野手だが課題は打撃にあり、2015年から17年までファームでの打率は2割を超えることがなく、プロ5年目の昨年は5月まで打率.233、6月は18打数ノーヒット。そして7月、このままでは首筋が寒くなる……そんな夏を迎えたときだった。
「ずっと状態が悪くて、7月8日から西武第二球場でカーブマシンを打っている時でした。全然打てないので思い切って右足を内側に入れてみたら、急に今までとは違う感覚が掴めたんです」
すると7月9日は3打数2安打、二塁打も記録。その後もバットは打ち出の小槌のごとくヒットを量産し、7月は41打数16安打、二塁打が4本、三塁打が1本、公式戦2本目となる本塁打も放ち、打率は驚異の「.390」をマークした。
好調を買われた百瀬は、7月30日に念願だった一軍昇格を果たす。しかもベイスターズとって重要なイベントのひとつである『YOKOHAMA STAR NIGHT』の真っ只中。百瀬は「とても嬉しくてワクワクしました」と、当時を振り返る。
そして真っ青に染まる満員のスタンドの注目を一身に浴びて、7月30日の対ヤクルト戦の7回にハマスタの打席に立った。「凄い歓声が聞こえたけど、不思議と緊張しなかった。バッターボックスでは歓声は耳に入りませんでした」と集中できていたが、結果は三振。「ヒット打ちたかったですけどね」と悔しさを滲ませたが、プロ野球選手としての一歩を踏み出した瞬間だった。
キャンプは二軍スタートも
オフには先輩の乙坂智と、アメリカ・ロスアンゼルスでトレーニングに励んだ。「走攻守、全てにおいて身体の使い方を学んできました」と、異国の地で汗を流した。中でもバッティング面では「打ちたいポイントを一点に集中させる」ことをテーマに掲げ「今までと違う感覚を掴めた」と、手ごたえをつかんだ。
春季キャンプは二軍スタートだったが、2月12日の練習試合で放った特大のホームランがラミレス監督の目にとまり、翌日から一軍に招集された。セカンド、ショート、サードとマルチに守れる内野手として、ファインプレーも見せるなどアピール。3月に入り横浜に帰ってからも一軍にしがみついている。
比較的手薄な内野手事情もあり、「いまは守備からアピール」して開幕一軍を目指す。
「一軍は緊張感が違いますね。野球をやっていると実感できますし、絶対野球もうまくなります」と、苦労して手に入れた一軍の味は格別と語る百瀬。決して強豪ではない高校からドラフト下位で入団した、愛されキャラの「ももちゃん」がベイスターズの内野戦線に“ダークホース”として駆け抜ける。
取材・文=萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)