挫折を乗り越えて明治神宮大会で優勝投手に輝く
新型コロナウィルスの感染拡大によって、“無観客”での開催で検討を進めること発表された第92回選抜高等学校野球大会。3月11日に予定される最終決定までは予断を許さない状況だが、出場選手の中からプロ注目の逸材を紹介していきたい。第1回の今回は大会屈指の総合力を誇る本格派右腕だ。
▼ 高橋宏斗(中京大中京)
【投 打】右投 右打
<2019年秋季大会成績>
12試合(75回)被安打42 奪三振72 与四死球15 自責点15
防御率1.68/奪三振率8.64/与四死球率1.80
昨年秋、最もブレイクした選手をひとり選ぶとすれば、この高橋になるだろう。小学校6年時には「中日ドラゴンズジュニア」に選ばれるなど、高校入学時から大器と期待された投手だ。だが、高校入学後は決して順風満帆だったわけではない。
1年秋には東海大会で登板して、早くも最速146キロをマークするなど大器の片鱗を見せたが、当時はまだまだ体も細く、良いボールと悪いボールの差が大きい印象だった。昨年夏の愛知大会でも準決勝の誉戦で中盤、終盤と踏ん張り切ることができず、7回途中5失点(自責点2)で負け投手となっている。
そんな高橋が大きく変わったのは新チームになってから。県大会は初戦で東邦を被安打3、10奪三振で完封、決勝戦で愛工大名電を相手に被安打4、11奪三振の完封と、県内のライバル校を完全に封じ込めた。
東海大会では準決勝、決勝と少し苦しんだものの、明治神宮大会では全3試合に登板し、決勝の健大高崎戦ではリリーフで4回をノーヒットと完璧なピッチングを見せてチームを初優勝に導いた。
夏までと大きく変わったのが下半身の使い方だ。以前は軸足一本で立った時にしっかり体重を支えることができず、ステップするとすぐ腕が出てくるのでスピードがあってもとらえられる場面が目立った。
しかし、秋からはしっかり軸足に体重を乗せてためを作り、ステップしても上半身をしっかりと残せるようになった。左肩の開きもよく我慢できている。対戦する打者としては、ギリギリまでボールが見えないので、ストレートにどうしても差し込まれることが増える。このフォームでコンスタントに145キロ前後のスピードがあれば、高校生で攻略するのは簡単ではないだろう。
「頼れる変化球」で“勝てる投手”の要素を備えた
もうひとつ大きく成長したのが変化球のコントロールだ。走者を背負った場面でもしっかり腕を振ってスライダーを投げられるようになり、カウントをとるボールと決め球を投げ分けている。
さらに、打者の手元で鋭く落ちるフォークのようなツーシームも操るなど、“頼れる変化球”が2つあるというのも大きい。前述した明治神宮大会の健大高崎戦では、変化球を有効に使い、奪三振は「0」ながら、打たせてとる上手さも見せている。このあたりもただ速いだけでなく、勝てる投手としての要素を備えていると言えるだろう。
課題を上げるとすれば、フォーム面ではフィニッシュの安定感だ。以前よりも改善されてはいるものの、最後に左足一本で着地した時の姿勢が不安定な場面がまだまだ目立つ。肘の使い方や上半身に大きな欠点は見当たらないだけに、この点が改善されれば150キロも楽に超える可能性が高い。
もうひとつは変化の大きい緩いボールがないこと。大きいカーブ、もしくは、スピードを殺したチェンジアップ系のボールをマスターすれば、ストレートと速い変化球がさらに生きてくることになるだろう。
一部では、既に大学進学を希望しているとの報道もあるが、これだけのスケールと完成度のあるピッチャーだけに、すんなりと進路が決まることは考えづらい。センバツではプロのスカウト陣をより一層唸らせるようなピッチングに期待したい。
記事提供:プロアマ野球研究所