2020.03.08 13:00 | ||||
阪神タイガース | 4 | 終了 | 4 | 読売ジャイアンツ |
甲子園 |
白球つれづれ2020~第10回・原マジック
オープン戦とはいえ、白星からすっかり遠ざかり下位に低迷する巨人だが、さすが原辰徳監督、やることはしっかりやっている。
8日の阪神戦で目を引いたのは阪神の新外国人、ジャスティン・ボーア選手対策として敷いた守備の変則シフトだ。
メジャーで通算92本塁打の大砲が打席に向かった4回。巨人の野手陣が大移動を始める。まず三塁の増田大輝選手が左翼の定位置に守ると、それぞれの外野手は揃って右方向へ移動して4人外野手に。さらに二塁の吉川尚輝選手は右翼定位置の5メートル前あたりに構え、遊撃の山本泰寛選手が二塁ベース後方に位置する。三遊間はがら空きだ。
今やメジャーでは日常茶飯事で見られる変則シフトはズバリはまった。ボーアの打球は中堅左に飛んだが、本来の左翼手であるイスラエル・モタが楽々と捕球。6回にも同様のシフトで二塁後方の飛球を遊飛に仕留めた。
「左のパワーヒッターですから。一度やっておこうと。(この時期に)動いておかないと(本番で)慌ててしまうケースがある」と原監督は「ボーアシフト」の事情を説明する。
昨年、ボーアが所属したエンゼルスでの打球傾向を調べると全打球の37.7%がフライボールで、打球方向も79%が中堅から右翼に偏っている。早速の効果を見れば本番でもボーアシフトが採用される確率は高い。
日本で、データを駆使した変則シフトを積極的に活用しているのは日本ハムだろう。昨年も大胆な守備陣形を敷いたと思えば、先発投手に1~2イニングだけを任せて継投に入る「スターター」も取り入れている。こちらは立ち上がりに失点傾向の多い投手をいかにうまく活用するかを考えて編み出された方式。メジャーで取り入れられた戦法が数年後に日本でも採用される例は珍しくない。
「策士」原辰徳
昨年、西武の辻発彦監督に変則シフトの賛否を取材したことがある。
そのときは「日本の場合はメジャーほど極端な打者は少ない。仮に左打者で三遊間を空けると流し打ってくる打者もいるしね」と、それほど関心は示さなかった。
なるほど、ライオンズの強力打線を見ても首位打者の森友哉選手は左右どちらにも安打を量産できる。打点王の中村剛也選手も近年は右方向への功打も兼ね備えている。唯一、本塁打王の山川穂高選手は典型的なプルヒッターだったが、今季は中堅から右にも意識した打撃を心掛けている。ソフトバンクの柳田悠岐選手や巨人の坂本勇人選手らの球界を代表する強打者も同様、広角に打ち分けられるだけにメジャーほどの効果はないかもしれない。
しかし、外国人選手だけは別。彼らの多くは本塁打や長打を期待されるので、総じて「引っ張り専門」の打者が多い。まさにボーアやオリックスの超大物助っ人、アダム・ジョーンズらは長年、力対力のパワー勝負で活路を開いてきた実績がある。単打なら許すが一発は絶対にダメという場面では、こうした変則シフトが増えていくだろう。
原監督の仕掛けはこれだけで終わらない。同日夜、NHKで放送されたスポーツ番組にセ・リーグ各監督と出演すると、その場で昨年来の持論である「DH制採用」を提議している。この10年来、日本シリーズでもパ・リーグに苦杯をなめさせられることが多く、交流戦も歯が立たない。その大きな要因としてDH制度があると原は言う。
「投手の打席の時に(パでは)打者が立つ。もちろん指名打者がいる分、打線は厚みが増す。それをはね返すことで投手も成長する。セに比べてパ・リーグには球の速いピッチャーが多いのもDH制と無縁ではない」。打倒パ・リーグへ、みんなで考える時期に来ていると力説する。全国放送を利用して発信するあたりに「策士」の顔もうかがえる。
キャンプでは主砲の岡本和真選手に「新若大将」と命名し、育成出身のモタを支配下登録する時は全選手の前で賛否の挙手をさせるなど話題作りもうまい。
今季は山口俊投手のメジャー移籍などで戦力ダウンも危惧される中で、若手の台頭と新外国人選手の底上げで活路を見出したい。加えて、原流の「仕掛け上手」で何勝ほど上積みが出来るか? そのマジックにも注目してみたい。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)