オリックス・バファローズ 鎌田一生さん
近年、スポーツトレーナーやトレーニングに関する大学学部の増加など、スポーツ業界において大きな注目を浴びている「トレーナー」という仕事。第一線で活躍する彼らはどのような経歴で、そしてどのような想いを持って現場に立っているのだろうか…。
年間143試合を戦うプロ野球のレギュラーシーズン。その最前線にいる選手たちのケアやトレーニングをサポートする上で欠かせない存在がトレーナーだ。今回はオリックス・バファローズのトレーナーのひとりである鎌田一生トレーナーに、その志やトレーニングに対しての考えを伝授してもらった。
▼ 鎌田一生(かまだ・いっせい)
2018年からオリックス・バファローズのトレーナーを務めている。
トレーナーとしての「モットー」は…?
鎌田さんがトレーナー業を志したのは、自身が現役選手時代に故障で苦しんだからだ。
甲子園出場4回(最高成績が8強)、10人以上のプロ野球選手を輩出している古豪・三田学園で近畿大会に出場したが、自身は控えの捕手だった。
「体の使い方が下手だったんでしょうね。肘、肩、腰、指の脱臼…。いろんなところを怪我しました。でもだからこそ、練習やトレーニングの方法をよく調べるようになって。それがきっかけです」
「(当時)健康やったらトレーナーにはならなかったかもしれないですね(笑)」
高校卒業後はアメリカに留学。北コロラド大、オレゴン州立大大学院でスポーツ医学を中心に学び、ゴルフやアメリカンフットボールのチームに学生トレーナーとして従事した。
卒業後はMLBインディアンス傘下のマイナーチーム、日本ハム、阪神と渡り歩き、2018年からオリックスでトレーナーを務めている。トレーナー生活は19年目となった。
「Aという方法で僕や誰かが上手くいったからといって、それをみんなに押し付けることはしません。最低限のメニューは共通になりますけど、枝葉の部分は『この選手にはBが合うかな』『この選手にはCかな』と引き出しを多くしておかないと対応できないと思っています」
心がけているのは「自己満足にならないこと」。その選手が良くなることを第一とし、そのために多くの引き出しを持って選手と接したいと思っている。
「自重トレーニング」のすすめ
そんな中、鎌田さんは自重でできるトレーニングも活用している。
「バファローズでは、筋肥大したくないけどコアを使いながら四肢を動かすことをメインに使っています」。利用しているのは投手の方が多いという。
「トレーニングをしたことがない人が、自重でできるチューブやロープなどの運動をすれば多少は肥大しますが、普段から強度の高いトレーニングをしているアスリートは肥大しないと思います」とのことで、野手は重い負荷のものを挙げたがるが、「投手は筋肥大しすぎることによって肩の可動域が狭まることを恐れます。そのため、まんべんなく投手は自重系のトレーニングを行なっていますね」と解説する。
「重いもので肥大させるのではなく、コントロールしながら動かすイメージ。神経系のトレーニングにもなりますからね」
また、このような自重トレーニングは、アスリートだけでなく幅広い年齢層にも活用は可能だという。
例えば、ロープのようなものを使うトレーニングであれば、「真上から体重をかけると結構な負荷がありますけど、ちょっと体を起こしたような状態でやるとキツさが軽減します」というように、体重のかけ方や角度によって負荷を自分で変えることができる。そのため、「リハビリにも使えると思います」と、シニア世代におすすめのメニューになる。
さらに、ジュニア層にとっても「自重で必要以上の負荷がかからないのでいいと思います」と、やはり負荷を自在に操れることが大きなメリットだと語った。
自信がもたらす日々の彩り
トレーナーも年間通して戦うチームの一員。目標となるのは、当然リーグ優勝だ。そのためには、鎌田さんをはじめとするスタッフによるサポートが不可欠なのは言うまでもない。
トレーナーとしてのやりがいについては、「選手が体の変化に気づいたり、できなかった動きができるようになった時が嬉しいです」と話す。この「変化に気づく」ことの楽しみは、ジュニア層やシニア層の利用者にも言えることだ。「できるようになった」という成功体験が日々の生活に彩りをもたらす。
「子供は“できた”と思えば、“これおもろいやん”となってどんどんやるようになりますし、シニア層の方も例えば“孫を持ち上げられるようになった”とか、“同世代より動ける、たくましい”となれば、それは自信に繋がりますよね」
アスリートだけでなく、すべての人の目標や日々の生活に寄り添える可能性が、トレーナーの仕事には詰まっている。