コラム

上を向いて歩こう【非常事態下のベースボール】

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斉藤惇コミッショナー (C) Kyodo News

第2回:激動の1週間


 野球界にとって激動の1週間が過ぎようとしている。悪夢の、と言ってもいいかも知れない。


 3月9日、プロ野球は臨時の12球団代表者会議で同月20日から開幕予定のセパ公式戦の延期を決定。11日、今度は日本高野連と主催の毎日新聞社が臨時運営委員会の席で同19日に開幕予定だった第92回選抜高校野球の中止を発表した。

 こちらは大会史上初の中止(戦争時の中断は除く)。4日の時点では無観客による開催を視野に入れていたが、猛威を振るう新型コロナウイルスの影響下では無理と判断。主催者は「断腸の思いで」(丸山昌宏大会会長)苦しい胸の内を語った。

 WHO(世界保健機構)の「パンデミック宣言」を待つまでもなく、新型コロナの感染は世界中に広がりを見せている。スポーツ界だけでも米国ではバスケットのNBAで現役選手の感染が判明して同リーグの中断が決定。メジャーリーグのMLBでも、オープン戦の中止と開幕の延期が発表された。

 他にもイタリアのプロサッカーリーグ・セリエAが中断、羽生結弦選手が出場予定だったカナダで開催予定の世界フィギュアスケート選手権の中止も決定している。もはや、日本国内だけで語れる状況でなくなっているのも確かだ。


3月11日の決定


 センバツの中止が決定した11日は、東日本大震災から9年目の春。本来なら数日後に甲子園で晴れの日を迎えるはずだった出場予定32校の球児たちを思うと胸が痛む。中止決定の報せに多くの球児たちが涙を流し、指導者は今回の決定に一定の理解は示しながら、部員たちの「心のケア」に頭を悩ませている。

 高野連の八田英二会長は、彼らに対して「何らかの形で甲子園に来ていただきたい。あるいは甲子園の土を踏ませてあげたい」と救済策を示唆。12日付の日刊スポーツでは、野球評論家の江川卓氏が夏の大会に、今回の「幻のセンバツ代表」も呼んで「春夏合同甲子園」のアイデアを披露している。

 出場校数の拡大や大会期間と甲子園球場の日程確保など難しい問題があることは承知しているが、それに近い形でも実現すれば、これ以上の思い出はない。ピンチをチャンスに。関係者の英知に是非とも期待したい。

 ロッテのビッグルーキー、佐々木朗希投手にとっては大震災で父と祖父母を失い、今またプロの門出を延期というほろ苦い思いが重なる。同じように子供の頃に被災して、今度はセンバツ大会の出場の場を奪われた球児もいる。宮城の仙台育英高、福島の磐城高の選手たちだ。

 中でも21世紀枠で出場予定だった磐城の選手たちは、20人の部員の多くが震災と放射能の影響で県外非難を経験したという。それでも復興のボランティアとして汗水流した点も選考理由の一つに挙げられている。10代の若者にとって試練の連続は厳しすぎる。

 そんな被災球児に佐々木の語る言葉は重い。

「悲しいことではあったけれど、すごく今に生きている。当たり前が当たり前じゃないとか」。


こんな時だからこそ


 無観客の中でオープン戦を戦うプロ野球選手たちも、異口同音にファンの有難みを語り、それでも野球が出来る大切さを改めて認識したという。一方で、アスリートたちがよく使う「ファンに夢と感動を」という常套句が非常事態下では無力に近いことも今回の事件で考えさせられた。スポーツや芸能、レジャーらは平和だからこそ謳歌できるのだ。

 未だに出口の見えない、こんな時だからこそ、下を向かずに前を見つめよう。野球が出来る喜びを噛みしめて、ファンとの絆を再認識することが、再開後のベースボールにとってプラスになるはずだ。

 今までとは、ちょっと違うプロ野球、アマ野球の魅力が発信できれば、それこそが恩返しにもなる。その日まで。もう少しの我慢だ。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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