白球つれづれ2020~第11回・竜の新たな正捕手候補
昨年秋のドラフト会議、プロ野球・12球団の指名を受けた選手は計107名。ドラフト1位の金の卵から、育成契約で這い上がっていこうとする者まで、人生模様は様々だ。
あれから4カ月──。キャンプ、オープン戦を経て今季の一軍陣容が明らかになりつつある。新人にとって1年目から晴れ舞台を勝ち取るための壁は厚い。そんな中で、担当記者が「開幕スタメンもあり」と声を揃えるのが、中日のドラフト4位ルーキーである郡司裕也捕手だ。
新型コロナウイルス感染の影響で、本来なら3月20日に開幕予定だったペナントレースは4月以降に延期。それでも、形の上では15日がオープン戦の最終戦となった。
ロッテ戦に「8番・捕手」として先発出場した郡司は、3回にロッテの西野勇士投手から右中間に二塁打を放つ。これを口火にチームは3得点をあげて快勝。オープン戦を4連勝で締めくくった。
「自分のセールスポイントは打撃、まずそこからアピールしていきたい」とは入団時の“公約”だが、看板に偽りはない。コンスタントに鋭い打球を放ち、オープン戦では.357の高打率をマーク。長打率と出塁率を足した打者の能力を計る指標:OPSはチームトップの.955という数字を残している。
規定打席には達していないものの、文句なしの存在感で与田剛監督以下の首脳陣に強烈なインパクトを与えた。
チーム待望の大型捕手、誕生…?
“日本一”の申し子である。中学時代は千葉シニアで全国大会に優勝。仙台育英高では夏の甲子園準Vに、明治神宮大会で日本一。慶応大では「4番・主将」としてチームをまとめ上げ、リーグ優勝に同じく明治神宮大会でも覇者になっている。
加えて、4年秋のリーグ戦では三冠王。スカウティングリポートによれば「送球面に難あり」の指摘があるが、普通ならドラフト4位にいる人材ではない。
チームにとっても、大型捕手誕生の気配は何より明るい材料だ。
この7年間Bクラスの低迷が続いているが、特に深刻なのが正捕手の不在である。かつて、中日が優勝争いした時期には、必ず優秀な正捕手がいた。木俣達彦、中尾孝義に星野監督時代は中村武志、落合監督時代なら谷繁元信のOB各氏。奇しくも谷繁氏の引退以来、下位が定位置となっている。
5位に沈んだ昨年のチーム成績を見ても、「病巣」は明らかだ。
チーム打率.263はリーグトップで、防御率3.72は3位。しかも、守備率.992の堅い守りは日本歴代3位。これで上位に進出できなかったのは、打線の勝負弱さとパワー不足にある。
リーグNo.1のチーム打率を誇りながら、総得点563は阪神に次ぐ5位。90本のチーム本塁打は12球団のワースト。いくら広いナゴヤドームとは言え、ここ一番の勝負弱さを指摘されても致し方ない。
DH制のないセリーグでは、7番から9番の下位打線が非力だとチャンスは作っても得点にならない。昨年は強肩を買われて加藤匠馬の起用が増えたが打力不足、ベテランの大野奨太や木下拓哉らも併用されたが、いずれも抜け出す決め手はない。だからこそ、郡司の活躍次第では昇竜打線が生まれ変わる可能性がある。
“信頼できる捕手”を目指して
大学時代には、国立スポーツ科学センターの助言を仰ぎながら打撃の動作解析を研究したり、自軍に戻るとトラッキングのデータを活用して投手陣の強化に役立てるなど、頭脳派の捕手として評判も高かった。
「キャッチャーはまず投手や周りから信頼されなければいけない。配球ひとつとっても根拠を持って説明できるような存在でありたい」。
ルーキー捕手として、各投手の持ち球から配球、コミュニケーションと日々やるべきことは山ほどある。他チームの研究、分析も必要だ。こうした作業をこなしながら、自慢の打撃でライバルたちに差をつけたい。
幸い、チームには中村バッテリーコーチや、西武黄金期の名捕手だった伊東勤ヘッドコーチもいる。プロ仕様のインサイドワークを身につければ、向こう10年のレギュラーも夢ではない。
今春のキャンプでは、ドラフト1位・石川昴弥選手が話題を集めたが、故障もあって失速。昨年のドラ1・根尾昂選手も頭角を現しつつあるが、レギュラー奪取まではもう少し時間がかかるだろう。
彼らが高卒の逸材に対して、郡司の場合は即戦力の期待がかかる大卒だ。1年目から頭角を現しても不思議ではない。広島の大物ルーキー・森下暢仁投手(明治大)とは神宮からの好敵手。負けられない戦いがまもなくやって来る。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)