先の見えないプロ野球開幕
阪神の藤浪晋太郎投手らが新型コロナウイルスに感染していたことが発覚したのが先月26日、あれから1週間がたつ。事態は収束に向かうどころか、感染の拡大は止まらない。
球界では4月1日になって、元近鉄、日本ハム、楽天で監督を歴任した梨田昌孝氏も同ウイルスの陽性が判明して新たな衝撃が襲った。昨年時点では3月20日に開幕予定だったペナントレースは、その後になって4月10日、24日を基本線に日程調整を繰り返してきたが、今や5月以降への更なる延期は確実な情勢だ。
本来なら3日に行われる12球団代表者会議で新たな日程が話し合われる予定だったが、もはや態勢は事前に決していた。
先月31日に行われたパ・リーグ6球団社長による電話会議で「4月24日開幕は困難」との認識で一致。セ・リーグの球団でも同調する声は上がっており、球界は開幕日をいつにするか?も大事だが、それよりもその先に待ち受ける難題にどう対処していくかが最大の懸案事項となっている。中でも注目されるのが、パ6球団社長会議の中で明らかにされたソフトバンク・後藤芳光社長の発言である。
「環境が整わないのなら143試合出来なくても、新たな開幕のタイミングを見ていこう」。
これまで球界はペナントレースの143試合制堅持を前提にいくつものシミュレーションを繰り返してきた。3月開幕が狂っても東京五輪が1年延期となり、期間中に予定していた「五輪ブレーク」がなくなるので、影響は最小限に食い止めることが出来る。4・24なら何とか着地点も見出せるはずだった。
ところが、コロナ禍は全く先が見通せない。そればかりか安倍晋三首相は「長期戦の覚悟」を国民に要請。首都・東京の都市封鎖も囁かれる中、小池百合子都知事は都立校の休校を5月ゴールデンウィーク明けまで延長することを決定する。
さらに政府の専門家会議では感染拡大の重要警戒地域として、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫の5都府県をあげた。この地域にはセ・リーグだけで巨人、ヤクルト、DeNA、中日、阪神が本拠地を構えている。現状だけを見れば5月の開幕すらおぼつかないと言えるだろう。
球団経営の行く末は…!?
143試合のペナントレースを戦ったうえで、クライマックスシリーズ(ファーストステージ、ファイナルステージ)、そして日本シリーズが既存の日程だが、その中でペナントレースを維持できなくなったらどうなるのか? まさに球団経営の根幹に関わる一大事だ。
各球団の事情によりバラつきはあるが、収入の主なものは入場料、グッズ販売、スポンサー契約、放送権料など。これに対して最も大きい支出は選手、スタッフらへの人件費である。
19年度にプロ野球選手会が発表した年俸調査によれば、選手だけの総額でソフトバンクは39億2303万円で、巨人が38億7879万円。最も少なかったオリックスで16億1915万円。12球団総計では291億円余に上る。ちなみにこの数字は19年開幕時の支配下登録選手で外国人選手は含まれていない。もちろんスタッフや裏方の人件費も除外されている。
仮に143試合が守られたとしてもまだ大きな問題がある。感染対策として議論されてきた入場制限が現実となった場合だ。一人ひとりの間隔を2メートル以上空けたら通常の入場者数の50%にも満たない。シーズンシートを購入した人にはどうするのか? いずれにせよ経営サイドにとっては頭の痛い問題が次から次へと出てくる。
クラブの経営問題はNPBでは表面化していないが、すでに欧米では現実問題として報じられている。中でも驚いたのはサッカーの世界的名門であるバルセロナ(スペイン)がコロナウイルスの感染拡大により経営難に直面、トップチームの全選手が7割の給料減に同意したと伝えられたことだ。
エースのメッシ選手は給与とスポンサー料で年間1億3100万ユーロ(約157億円)を稼ぐが、出場日数が減る分だけ7割カットを続けると言う。ちなみにメッシのライバルであるC・ロナウド選手が在籍するイタリアのユベントスもコロナ感染の渦中にあり、こちらはすでに給与の4カ月分カットが決まっている。月給で5億7000万円と言われるから20億円以上の返上である。
現時点では欧米ほど感染被害は出ていないものの、この状況が長引けば野球界にもあらゆるリスクは降りかかって来る。未曽有のパンデミックはスポーツビジネスにもかつてない試練を与えている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)