延期に中止に…山積する問題
政府の緊急事態宣言を待つまでもなく、スポーツ界で各種大会の中止や延期が決まっている。全国に拡大するコロナウイルスの感染拡大を考えれば、当然の処置とも思えるが、先の見えない戦いだけに混迷の度は深い。
プロ野球(NPB)では、開幕の再々延期に迫られて、現状は次なる開幕日決定を先送りするしかない状態だ。しかし、それ以上に深刻な状況に追い込まれているのがアマチュア球界である。
長丁場のプロに対して、年間に主要な大会やリーグ戦が決まっているため、予選が開催できなければ本大会もおぼつかない。コロナ対策への準備期間も必要となる。容易に解決策は見つからない。
3月に予定されていたセンバツ大会の中止を決めた高校野球は、本来ならこの時期は春季地方大会が行われているはずだったが、ほとんどの地区で中止に。
大学野球は今月5日に東京六大学が異例の1試合総当たり方式を発表した。本来なら4月11日に開幕予定だったが、延期を決めたうえに74年ぶりの変則方式で日程の圧縮を図った。
一応、5月30日開幕を目指しているが、今後の状況次第では更なる延期や中止も視野に入れている。また、各大学リーグの延期を受けて6月8日に開幕予定だった全日本大学野球選手権も8月開催に変更された。
社会人野球でも各地方大会の延期に次いで7月2日開幕予定だった日本選手権などの中止が決まっている。最大のイベントでもある都市対抗野球は東京五輪開催に合わせて今年は日程を変更、11月開催で支障はなさそうだが、これとて夏場以降の予選問題を含めてまだまだ難問は山積している。
こうしたアマ球界の窮状に頭を抱えるのはプロのスカウトも一緒だ。
難しい高校生の評価
「メシの食い上げだね。仕事にならない」とあるスカウトが嘆く。本来であれば球春到来はスカウト陣の本格戦闘開始の時期でもある。
センバツ大会で高校球児の成長ぶりを確認すると、4月からは大学と社会人の練習試合や高校の春季大会を視察。大学のリーグ戦、社会人の地方大会をくまなく見て回り有望株をリストアップする。
さらに夏場にかけて高校球児なら甲子園を目指す各県の大会、大学なら大学選手権、社会人なら都市対抗予選(今年の場合は違うが)など、全国を飛び回っているのが常だ。
こうした膨大な資料を持ち寄って8月から9月にかけてドラフト会議に向けた素案が出来上がる。これに秋の動きを加えてドラフト本番に臨むわけだ。しかし、練習試合は自粛となり、練習そのものも活動停止のチームが少なくない。
近年のスカウト活動では球速、打球スピード、俊足などの基礎データはもれなく数値化されている。そのうえで練習態度や性格、リーダーシップ、大一番での勝負強さなど、日頃から見続けてきた「眼力」が試される。そのためにも地道な活動が必要不可欠だが、今年に限っては大幅な制約を覚悟しなければならない。
大学、社会人の選手に関しては「過去のデータや資料があるから、それほど心配していない」というスカウトの声がある一方で、最も評価の分かれそうなのが高校球児だろう。
すでに全国大会で高い評価を受けている高橋宏斗(中京大中京)や中森俊介(明石商)投手らは別格として、この春から急成長する選手などに細かくチェックの目が行き届くのか――。各団体の日程が圧縮されるほど調査は難しくなっていく。
一部ではすでに「夏の甲子園大会も開催できるのか?」という声が囁かれている。8月10日開幕予定の全国高校野球選手権だが、早い地区では6月下旬から地方大会が始まる。それに向けた準備期間も必要なため、日本高野連では5月中に地方大会の開催可否を決めたい意向とされる。
一方では、すでに全国で行われる有名な夏祭りなどの中止も決まっている。大型イベントの自粛要請が叫ばれる中、高校野球はどんな結論を導き出すのか。
アマチュアの野球選手にとってプロは最大の登竜門だ。別の見方をすれば有望選手にとっては今年の毎試合毎試合がプロ入りを賭けた「品評会」の場でもある。だが、アピールする場所が失われたり、少なくなってしまうことは、彼らにとって死活問題ともなりかねない。
開幕さえ見えないプロ側の事情もある。この先、ペナントレースの試合数短縮などの事態になれば、球団の経営面を圧迫するのは確実だ。例年のように戦力外通告が行われるのかさえ不透明な中、ドラフト会議でも従来通りの指名数を維持できるかは、わからない。「憎きコロナ」はこんなところにも顔を覗かせている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)