「1年間レギュラーとして試合に出たい」
開幕が遠いプロ野球――。しかし、この男には目標とする数字がある。ヤクルトの雄平が通算1000安打まで残り142安打と迫っている。投手としてプロの世界に飛び込んだ35歳は今年、野手に転向して11年目のシーズンを迎える。
「(野手に転向して)あまり1000本を打てるとか、打てないとか考えていなかった。遠い世界のような感じでした」
雄平は節目の数字が近づいてきた感想をこう述べたが、その裏には今季へ懸ける強い思いがにじんでいた。
「スタメンで1年間レギュラーとして試合に出たいと思っているので、今年中に142本クリアすることで、『スタメンをずっと確保していた』『レギュラーとして出ていた』という証明になると思う。もちろん142本以上打ちたいですけど、ひとつの目標としては、142本を今年中に打ちたい」
とにかく練習熱心で、早出でバットを振る姿が当たり前となっている背番号「41」。09年オフに投手から野手転向に挑戦し、11年には登録名を「高井」から現在の「雄平」に変更した。努力を重ねて積み上げてきた安打数には、大きな価値がある。
史上7人しかいない「2ケタ勝利+1000安打」
「ピッチャーはもう過去なので…」と話す雄平だが、東北高校では最速151キロ左腕として注目を集めた。
02年のドラフト会議で、近鉄と競合した末にヤクルトが交渉権を獲得。ルーキーイヤーの03年、4月22日の巨人戦(東京ドーム)でリリーフとしてプロ初登板を果たすと、背番号「16」をつけた高卒新人は、この年5勝(6敗)をマークした。投手としては、09年までの7年間でプロ通算18勝(19敗)を記録している。
かつての“豪腕”は「1勝できることって、できない人もいっぱい過去にいましたし…。でも18勝なので…」と謙遜する。しかし、プロ野球界で2ケタ勝利と1000安打を達成した選手は、「打撃の神様」と称される11勝・2351安打の川上哲治氏、昨日亡くなられたヤクルトの元監督で65勝・1137安打の関根潤三氏ら、史上7人しか達成していない。その偉大な記録を射程内に捉えている。
野手転向3年目で一軍へ…球団への感謝
「僕は幸せ。(球団が)長く見てくれたから。(野手に転向して)3年目ぐらいに一軍に出してもらった」
野手転向3年目の12年に一軍で47試合に出場し、打率.280を記録した雄平は「球団が完全に我慢してくれて、育ててくれた。待ってくれたということだと思う。そこに感謝しています」と、野手として活躍できている自身の現状について、球団への感謝の思いを忘れていない。
13年には野手転向後初となる本塁打を放つなどブレイクの予感を漂わせたが、4月17日の中日戦(神宮)で右膝を負傷。前十字靱帯を断裂するケガで13試合の出場に終わってしまう。しかし、翌14年には主力として141試合に出場して打率.316、23本塁打、90打点の成績を収め、ベストナインにも選出された。
「ピッチャーも打者(野手)もやらせてもらって、プロ野球で2つできることはなかなかない。最高の経験をさせてもらっていると思います」
育ててくれた球団への感謝と、プロ野球選手として「最高の経験」ができていることへの喜びが、雄平の言葉から素直に感じとれた。
開幕が無期延期となり、レギュラーシーズン143試合の削減も避けられない状況となったが、必ずその先に光が見えると信じ、雄平の「2020年シーズン」に期待したい。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)