白球つれづれ2020~第16回・注目集める田中の今後
今月12日、世界でいち早く台湾プロ野球が開幕した。5月には韓国でも開幕予定だという。両国は早期のコロナウイルス感染対策が功を奏し、感染者数は減少して無観客ながら開催にこぎつけた格好だ。
感染者数が世界最多のアメリカでは、キャンプ地のフロリダ、アリゾナ両州に全球団を集めて異例のレギュラーシーズン開催が検討されている。
検討案では、従来のア・リーグ、ナ・リーグで分けずに、両州を3地区ずつに分類して戦うというもの。実現すれば、田中将大投手が在籍するヤンキースや前田健太投手のツインズ、筒香嘉智選手のレイズなどがフロリダで、大谷翔平選手のエンゼルス、秋山翔吾選手のレッズ、菊池雄星投手や平野佳寿投手のマリナーズなどがアリゾナの地で戦うことになる。
MLBの“民族大移動”は州内の移動だけで済むため、感染リスクの軽減が期待される。キャンプ地であればキャンプから公式戦への移行もスムーズ。一定の中継放映権が確保されるなどのメリットがある。
一方で、狭いエリアでチームだけでなく審判や球場、報道関係者などが多数集まることへの不安や、すべてでDH制を採用予定のため、同制度のないナ・リーグの不利や、無観客での開催となればMLB総収入107億ドル(約1兆1600億円)の40%減収が見込まれるなど、課題も山積している。いずれにせよ、日本同様に開幕は6月以降にずれ込むことになるだろう。
この間、MLBと選手会では注目の合意がなされている。仮に今シーズンが中止となっても、今季終了後にFA資格を得られる選手には資格を与えるという内容だ。そこで今、最も注目を集めているのがヤンキースの田中である。
チーム事情と実績と
2014年に7年総額約168億円で楽天からメジャー随一の名門球団入り。7年契約の最終年にあたる今季の働き次第で、激しい争奪戦も予想されていた。もっとも、田中の場合は17年オフ、FA権利を行使せずに残留したため今オフは球団に選択権がある。
では、田中は過去6年間でどれほどヤ軍に貢献してきたのか? 入団1年目から昨年まで6年連続で2ケタ勝利をマーク、通算75勝43敗、防御率も「3.75」と、常に先発ローテーションを守ってきた。その安定感は高く評価されるだろう。加えて、ポストシーズンに突入すると田中の勝負強さは際立つ。8試合に先発して5勝3敗ながら防御率は「1.76」に跳ね上がる。
さらに、チームに貯金をもたらすのがエースの条件。楽天時代の2013年には24勝無敗の金字塔を打ちたてて日本一の立役者となったが、レベルの高いメジャーでも6年間で「32」の貯金を稼いでいる。活躍すれば賞賛を惜しまないものの、結果を残さなければ袋たたきがニューヨークマスコミの習性。世界一厳しいと言われる環境下でコンスタントに働く精神力も田中の強みだろう。
地元担当記者らの感触では、ヤ軍が残留オファーを出して新契約の見方が多いものの、契約延長を疑問視する向きもある。昨年オフにアストロズから球界No.1のコール投手を巨額で獲得した経緯やコロナウイルスによる大幅な減収が避けられないため、さすがの金満球団も今年は事情が違うという見方だ。
もしも、放出に舵を切った場合、獲得に乗り出すと見られる候補には、ドジャースや大谷のいるエンゼルスらの名前が挙がっている。大谷と田中の合体となれば日本人にとってこれ以上の楽しみはないが、ここには大きな障害もある。今度は大谷の年俸問題である。
3年前に23歳の若さで海を渡った大谷には、メジャーの年俸制限がかけられ今季でも70万ドル(約7554万円)の低コストに抑えられている。しかし、今オフにはその規約から外れて年俸調停の権利が生まれる。さらにメジャーで6年目を終了する2023年にはFA資格を手にする。今やエンゼルスどころかメジャーでも至宝級と評価される大谷には、現時点でも年俸で20億から30億の値がつくほど。大谷を囲い込むためにエ軍も多額の資金が必要となるわけだ。
両雄、並び立たず? それでも二人の去就と年俸問題が本場の野球ファンの間で大きな話題となるのだから、日本選手のステイタスも上がったものである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)