白球つれづれ2020~第23回・開幕へアピールを続ける若手たち
今月2日から始まった各球団の練習試合も中盤に差し掛かってきた。開幕から逆算すると一・二軍のボーダーライン上にいる選手にとっては、残された数少ないゲームで自らの存在をアピールするしかない。
そんな必死さを感じる選手のプレーに魅せられる。
一人目は、巨人の湯浅大選手。不動のレギュラー、坂本勇人選手の代役ながら7日のヤクルト戦に「2番・遊撃」で出場すると3安打3打点の大活躍だ。
その中でも2回にヤクルトの高橋奎二投手から放った左越え本塁打は、左腕特有の内角に食い込んでくるクロスファイヤーをコンパクトに振り抜いた技ありの一発。オープン戦でも「.391」の高打率を記録するなど急成長の20歳は3年前のドラフト8位指名だから、このまま成長曲線を描けば、かなりの「掘り出し物」となる。
与えられたチャンスを生かして虎視眈々と
もう一人は西武の4年目、鈴木将平選手の走塁だ。
7日に行われた中日戦に途中出場すると9回、大量得点につながる右前打もさることながら、二死満塁の場面で木村文紀選手の打球は平凡な右飛。ゲームセットのはずが、名手・平田良介選手がまさかの落球。この時、一塁走者の鈴木は何とホームまで生還している。普通なら二・三塁間あたりでスピードを緩めてもおかしくないところだが、一軍生き残りをかけてアピールする気迫が好プレーにつながっている。
この日はベテランの栗山巧選手も本塁上のクロスプレーを巧みな走塁で得点につなげている。西武では走塁の意識も高くなければ生きていけない。こちらも湯浅同様に一軍と二軍の線上ながら徐々に出番を増やしていくだろう。
彼らはドラフト組だが、もっと底辺から這い上がろうとする「育成組」の働きも見逃せない。
7日の中日戦で先発した西武の与座海人投手は25歳の苦労人だ。2017年のドラフト5位で入団するが、翌18年オフには右肘手術のため、育成選手契約に。再び支配下登録された昨年も公式戦登板はイースタンリーグの2試合のみ。それでも尊敬する牧田和久投手(現楽天)の投球フォームを真似て、研究して下手投げを完成させた。キャンプからの成長に首脳陣も高評価を与え、ついに開幕ローテーション入りを手にしている。
その他にも巨人の増田大輝(15年育成1位)や「第二の周東」と快足ぶりが買われて先頃、支配下登録されたばかりのロッテ・和田康士朗(17年育成1位)の両選手らも出番を増やしている。
今後の命運を握る育成力?!
プロ野球に育成制度が誕生したのは2005年だから歴史は古くない。それまではドラフト外として獲得していたが、規約があいまいなうえに金銭的に余裕のある球団と、それ以外で差が広がる恐れもあった。そこで同年から「育成ドラフト」制度が導入される。
最初に「育成組」で結果を出したのは巨人だった。翌年に獲得した山口鉄也投手、07年には松本哲也選手が共に新人王を獲得、その後も逞しく主力選手の座を勝ち取った。現在は二人とも巨人のファームで育成組を含めた若手を指導している。
その巨人の上を行く育成システムをソフトバンクが作り上げた。ご存知の千賀滉大、甲斐拓也から石川柊太、大竹耕太郎、さらに今売り出し中の牧原大成、周東佑京の各選手ら育成組がズラリと主力に成長している。いずれも怪腕、強肩、俊足と言った一芸に秀でた選手を時間をかけて育て上げる手法で2011年から創設した三軍システムは今や各球団でも取り入れるようになっている。
対する巨人では、今季から「金の卵を探せ」とスカウト活動を強化する方針を打ち出した。阿部慎之助二軍監督以下、現場首脳陣がドラフト候補生を直接チェックに出動。さらに全国各地に散らばるOBとも連携して草の根のスカウト活動を行うことを発表したのだ。
両球団共に、ドラフト以外で新外国人やFAで大物選手も獲得してきた。だが、巨人の場合は、それが若手の成長の芽を摘む弊害も生んできた側面がある。逆にソフトバンクの場合は外から大物、下から育成組やファームの突き上げがあるからレギュラー組もうかうかしていられない競争社会を生んできた。原監督のスカウト活動刷新の狙いもそこにある。
コロナ禍で各球団とも経営難が予想される今オフは、ドラフト指名も限られた人数に絞り込まれる可能性が高い。こんな時にこそ、球団の覚悟と先を見通す能力が問われる。地道に隠れた逸材を見つけて育て上げる。「育成の時代」は球界のトレンドでもある。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)