白球つれづれ2020~第24回・スパンジェンバーグ
これだから新外国人の評価は難しい。
西武の新外国人、C.スパンジェンバーグ選手が万全の態勢で19日の開幕を迎える。2日から始まった12球団の練習試合で34打数17安打4本塁打の大暴れ。無観客のため、練習試合とは言うものの実質はオープン戦と変わりない。その大切な時期に打率5割は、30打数以上の選手の中で堂々の首位打者。4本塁打も全選手中4位と文句のつけようがない。
練習試合は16日に巨人VSロッテ戦を残すものの15日現在で打率.387を残すロッテの福田秀平選手が5打数5安打を放っても届かないので、事実上のキング確定と言っていいだろう。
さらに13日のロッテ戦からは定位置だった「8番」から「1番打者」に昇格。当初、切り込み隊長を期待された金子侑司選手が不振のための緊急テストだったが、ここでも2戦連続マルチ安打で期待に応える。この満点回答には辻発彦監督も「開幕にはそういう形にせざるを得ないだろう」と開幕での一番起用を認めた。
「走攻守揃っている。内外野どちらでもでき、日本の野球にも適応できる」。入団時に渡辺久信GMが語ったスパンジェンバーグ評である。
コロナ禍が転機に
2011年にインディアナ州立大からドラフト1位指名(全体の10番目)でパドレスに入団、誇らしい経歴とは裏腹にメジャーデビューは14年。キャリアハイの働き(129試合出場、打率.264、13本塁打、46打点)は17年と時間がかかっている。ブリュワーズに移籍した一昨年以降はファームでの不遇生活が続いた。
メジャーでも三塁、遊撃、二塁のほか、外野の全ポジションを守っているユーティリティープレーヤーだが、別の見方をすれば「便利屋」として扱われたのだろう。西武での年俸も8000万円(推定以下同じ)。今季はオリックスのA.ジョーンズ(4億3600万円)、ソフトバンクのM.ムーア(3億円)、阪神のJ.ボーア(2億7250万円)各選手ら大物助っ人が続々来日した中ではB級の見方が多かったのも事実だ。
宮崎の南郷キャンプから春先のオープン戦では全くバットから快音は聞かれなかった。オープン戦の成績は「.174」の体たらくで先発出場すら疑問符がつけられた。そんな男にとってコロナ禍の中断期間が貴重な立て直しの時間となる。先輩助っ人のE.メヒア選手とマンツーマンで打撃マシンに向き合う。日本野球の特徴、日本人投手の配球傾向なども同時に学んで、ようやく本来のバッティングを取り戻した。
6月2日から始まった練習試合では、いきなり巨人の菅野智之投手から一発を放つと5、6日の中日戦では2試合で3発。その打球方向もライトに1本、センターに2本、レフトに1本と広角に打ち分けている。元々、ヒッティングポイントは手元に近く、上体が前方に泳がされることが少ない。変化球の多い日本人投手相手には有効な打撃で、シーズンに入っても大崩れはなさそうだ。この4月には第一子の長女が誕生。それ以降、上り調子も無縁ではないのだろう。
前評判を覆せるか
チームは練習試合を8勝1敗1分けの圧倒的な強さでトップの座を得た。オープン戦でも首位で「二冠」。10試合で69得点と今年も圧倒的な攻撃力を誇る。ところが、評論家諸氏の前評判は決して高くない。例年のように指摘される弱体投手陣と今季は主砲・秋山翔吾選手のメジャー移籍で抜けた穴を不安視する声が多いからだ。
確かに昨年も「1番・金子」「3番・秋山」でスタートしたがうまくいかなかった経緯がある。日本一の安打製造機が抜けた穴は、おいそれと埋まらないだろうが、「その時」のためスパンジェンバーグがテストに合格した意味は大きい。さらに、直近の試合では左翼以外に三塁や二塁の守備につき、非常時の起用法も指揮官の頭の中では固まりつつある。
過去に岸孝之、涌井秀章、菊池雄星と言ったエースから浅村栄斗の主砲まで毎年のように失い、チームの弱体化を叫ばれながら辻西武は沈まなかった。今年も投手陣に「牧田二世」と呼ばれる與座海人投手やドラフト1位の宮川哲投手などの新戦力が期待される。そこへ評価を上げて来たスパンジェンバーグが万能選手ぶりを発揮できればリーグ3連覇も夢ではない。
開幕も秒読み。「米国産・外崎」のバットから目が離せない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)