コラム 2020.06.23. 07:09

観客がアシストした「縄本」に「振り逃げ満弾」も…球史に残る伝説の“珍”本塁打

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オリックス・竹原直隆と「“珍”ホームラン」 (C) Kyodo News

野球の華・ホームランにまつわる珍事件


 新型コロナウイルスの影響により、当初の予定より3カ月も遅れてスタートしたプロ野球の2020年シーズン。残念ながら完全な形ではなく、当面は「無観客」での開催となっているものの、ここに来て7月中にも観客を動員した試合開催の可能性が浮上してきており、明るい兆しが見えつつある。


 野球観戦における楽しみのひとつと言えば、“本塁打”を思い浮かべる方も多いのではないか。「ホームランは野球の華」という言葉もあるように、打者が描く大きな放物線にファンは心躍らせ、野球少年は夢を抱く。




 しかし、何も“スタンドイン”だけが本塁打というわけではない。ここで取り上げるのは、プロ野球史に残る「“珍”本塁打」だ。


 というわけで、今回は『プロ野球B級ニュース事件簿』シリーズの著者であり、ライターの久保田龍雄氏に、“本塁打”にまつわる珍エピソードを振り返ってもらった。


ファンがアシストした本塁打!


 特に現在のように立派な球場がなかった時代には、思わず「そんなことある!?」と目を丸くするような仰天ホームランもあった。

 ひとつ目は、「縄ホームラン」という前代未聞の珍事。1953年4月1日に行われた、洋松-広島戦での出来事だ。

 球団草創期の広島は、県内に公式戦を開催できる基準を満たした球場が少なかった(※広島市民球場の開場は1957年7月)ことから、時には学校や企業のグラウンドを借用することもあった。

 この日の試合会場となったのが、尾道西高グラウンド。外野にはフェンスがなかったため、ロープを張り巡らして客席とグラウンドを仕切っているという状況。それでも、そんな臨時会場には6000人もの大観衆が詰めかけていた。


 アクシデントが起きたのは、0-0で迎えた4回のこと。広島の2番・白石勝巳が、権藤正利から右中間のロープをギリギリで越える先制ソロを放つ。

 しかし、その直後、洋松・小西得郎監督は「(観客が)ロープを前に押し出してホームランにした」という抗議に出た。

 外野に陣取った地元ファンが広島を勝たせたい一心で、白石の打球を“アシスト”したというわけだが、当時はリプレイ映像などがあるはずもなく、検証のしようもない。結局、判定は覆ることなく、試合再開後は「縄に手を触れないでください」の警告アナウンスが繰り返されたという。


 なお、試合は広島の先発・大田垣喜夫が6回まで無失点の好投を見せ、1-0のまま終盤戦へ。

 “疑惑の一発”による虎の子の1点を守って逃げ切るかに思われたが、7回に連打と2つのエラーで無念の逆転負け。ファンとの合作(?)の「縄ホームラン」は空砲に終わった。


伝説の「振り逃げ満塁弾」はなぜ起きた?


 こちらは記録上は本塁打にはならないのだが、今なお「振り逃げ満塁ホームラン」として語り継がれているシーンがある。1960年7月19日に行われた、大毎-東映(駒沢)での出来事だ。

 1-3とリードされた大毎は8回、二死満塁のチャンスで4番・山内一弘が打席に立つも、フルカウントから土橋正幸の内角シュートに手が出ず見逃し。

 「ストライク!」──。井野川利春球審は、高らかに三振をコールする。

 ところが、この球を捕手の安藤順三が落球。拾い直して一塁にボールを送って3つめのアウトが完了となるところ、ストライクのコールの時点で3アウトになったと勘違いした安藤はボールを追わずに引き上げ、ボールはグラウンド上に残ったまま、守備に就いていたナインもベンチへと戻ってしまった。


 これを見逃さなかった大毎は、三塁走者の石川進、二塁走者の柳田利夫、そして一塁走者の榎本喜八までが相次いでホームイン。

 さらに、アウトになったと思い込んで一旦はベンチの方向へ向かいかけた山内も、チームメイトからの「走れ、走れ!」という指示を受けて無人のダイヤモンドを一周。かくして、プロ野球はじまって以来の珍プレー「振り逃げ満塁ホームラン」がここに実現した。


 これには東映側も、保井代理監督が「山内は一度ベンチへ帰りかけたのだから、走塁放棄によりアウトではないか」と抗議。しかし、審判団は「山内の走塁は、規則に触れるほどのものではなかった」と判断。

 ルール上では4点を認めるべきだが、東映側も引き下がることなく、「誰も守備位置についていないことだし、この情勢では2走者のホームインを認め、3対3の同点、走者は一・二塁で試合を再開したい」という“妥協案”を大毎・西本幸雄監督に申し入れる。

 だが、西本監督は「ルールに従って判断すれば、全走者の得点は認められるはずだ。2点だけを認めるなどとは腑に落ちない」と断固拒否。直後、旗竿を振りかざした東映の応援団がグラウンドに乱入し、井野川球審に暴行を加えるなど、騒動はエスカレートする一方。

 結局、58分もの中断の後、審判団は妥協案を撤回。「4走者のホームインを認める」とし、東映側もしぶしぶ認め、ようやく試合再開へとこぎつける。

 試合はこの4点がモノを言って、大毎が5-3で勝利。ちなみに、大毎はこの年に毎日オリオンズ時代の1950年以来、10年ぶりとなるリーグ優勝を成し遂げた。


レフト前ヒットが一転…


 古い話が続いたが、最後は近年の話もひとつ。2014年5月6日、ロッテ-オリックス(京セラドーム大阪)の一戦でも、珍しいホームランが生まれたことを覚えている方はいるだろうか…。

 プレイボール直後の1回表、ロッテの先頭打者・荻野貴司は先発・西勇輝の初球をとらえ、レフトに弾き返すクリーンヒット。打球はワンバウンドで竹原直隆がキャッチ……と思った瞬間、人工芝に足を取られた竹原がまさかの「すってんころりん」!ボールはフェンス際まで転がっていった。

 ちょうど一塁を回ろうとしたところで、「何が起こったか分からなかった」と、打った荻野もビックリ。それでも、転倒している外野手と転がる打球を確認したところで、一気のギアチェンジ。「あとは一気に走りました」と、球界トップクラスの快足を飛ばしてダイヤモンドを一周。

 本塁に滑り込んだ瞬間、おそらく史上初であろう「推定飛距離60mの先頭打者初球ランニングホームラン」が誕生した。


 実は、竹原もロッテ時代の2008年6月4日、千葉マリンで行われた交流戦の中日戦で、平凡な左飛と見られた打球が相手のミスによりランニングホームランになったという幸運を味わっている。

 それから6年後、今度は自分がそれを“提供”する側になろうとは…。きっと夢にも思っていなかったことだろう。


 それでも、この日は3回の第2打席でレフトスタンドに叩き込む完ぺきな一発。自らのミスを帳消しにする一打を放って見せ、試合も8-2でオリックスが快勝。

 試合後、竹原は「ホッとしましたよ、マジで。負けていたら、話にならない」と胸をなでおろしていた。



文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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