短期連載:「20年」プロ野球の“異変”を追う
コロナ禍の中で、プロ野球が開幕した。3カ月遅れのスタートに、無観客試合など例年とは違う風景での戦いは120試合制や過密日程など過酷な条件を各チームに強いる。こうした中で今季ならではの異変や傾向を探ってみたい。
それが滑り出しの一過性のものなのか、シーズンを通した流れとなっていくのか――。覇権争いのポイントとしても要チェックだ。
第1回:飛ぶボールとアーチ合戦
阪神の西勇輝投手は巨人のエース・菅野智之投手から147キロのストレートを左翼スタンドにプロ入り初の一発。さらに5回にも左中間に適時二塁打と投打にわたる大活躍。これでチームが勝っていればその後の低迷もなかったのだろうが、継投策が裏目に出て獅子奮迅の働きも報われなかった。
もう一人、開幕戦に本塁打を記録した投手がいる。広島の大瀬良大地だ。
DeNA戦の9回に国吉祐樹投手から右越えに流し打ちアーチ。投げては両リーグの完投一番乗りを果たした。同一年の開幕戦で複数の投手が本塁打を記録するのは史上初。ちなみに西は一昨年までオリックスに在籍して、交流戦以外で打席に立ったことがない。
大瀬良も九州共立大時代はDH制のため打撃は不慣れで、プロ入り後の6年間で本塁打はゼロ。そんな赤ヘルのエースは2度目の先発となった6月26日の中日戦でも2安打を放ち、この時点では打率が5割超え、しかも2戦連続完投勝利だから文句なしのヒーローである。
微増?微減?
投手でさえ一発があるのだから、ネット裏では今年も「飛ぶボール」が注目されだした。そこで6月末時点(以下同じ)での本塁打数をチェックしてみる。
セ・リーグは29試合で63本のホームランが飛び出し、1試合平均2.17本。昨年1年間(143試合制)の平均本塁打が1.92本だからかなりの確率で増えている。一方のパ・リーグは30試合で57本塁打。1試合平均は1.9本で前年は1.99本だから微減の滑り出しだろう。
これをチーム別でみると、セでは巨人と広島が15本塁打ずつでトップ。中日(6本)、阪神(7本)と下位に低迷するチームは一発不足が顕著に表れている。
パではロッテとソフトバンクが11本で並び、最も少ないのがオリックスの7本。こちらはロッテ打線の好調ぶりを裏付けている。
意外な苦戦は強力打線が看板の西武だろう。主砲の山川穂高選手の5本塁打を除けば、この時点で他の野手は4本だけ。開幕前の練習試合では12球団一の破壊力を誇ってきただけに調子の波が落ちているのか?それとも他球団のマークがきつくなっているのか?気になる兆候ではある。
本塁打の中でも、飛ぶボールと結び付けられるのが、流し打ちやセンターバックスクリーンへの一発だ。
ソフトバンクの柳田悠岐、巨人の岡本和真、ヤクルトの村上宗隆各選手らは逆方向へ「押し込む」パワーを持っているから驚かないが、今季は開幕戦の大瀬良をはじめ、これまで非力と言われてきた打者でもジャストミートすればスタンドインといった光景は珍しくない。一時代前なら流し打ちの本塁打はなかなか見られなかったし、バックスクリーン直撃弾はもっと至難の業だった。
その他の要因も?
近年、「ボールが異常に飛ぶ」という声は現場の選手たちからもよく聞く。
公認球にはNPBによって反発係数が測定されるが、範囲内の最も係数の高いボールが採用されている、とも言われる。さらにいくつかの球場では本塁打が出やすいように「ホームランテラス」を設けたり、各球団の投球分析も進んでいる。
打者に関してはパワーアップが進み、米国流の「フライボール革命」の導入で、本塁打を生む打球角度まで明確になっている。投手が150キロ超の快速球を投げても、制球されなければ怖くないのが現状だ。
「お客さんが入らないことで空気が乾燥しているというか、カラっとしているというか。原理的には湿気がない方が、ボールは飛ぶ」と、デイリースポーツのコラムで新説を語ったのは元阪神監督の岡田彰布氏だ。これも2020年の野球の異変なのだろう。
投手力の充実とともに、多くのシーズンで本塁打攻勢をかけられるチームが王座を手にしている。さて、7月、8月とどのチームが一発の波に乗っていくのだろうか?
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)