投手もできる、プロ注目の万能捕手
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、残念ながら中止となってしまった今年の全国高校野球選手権および代表校を決める地方大会。それでも、各地で代替大会は行われることになり、早い地域では既に開幕しているところもある。
プロアマ野球研究所(PABBlab)では、そんな代替大会での活躍が期待される、もしくは活躍が光った選手について、積極的に紹介していきたい。
今回取り上げるのは、静岡で注目を浴びる「3拍子ではなく“4拍子”」揃った万能型のキャッチャーだ。
二塁への送球タイムは「1.9秒台」
昨年秋から、その強肩ぶりが静岡県内で評判となっていたのが二俣翔一(磐田東)である。
所属する磐田東は1995年の創部と比較的新しい野球部だが、2011年夏の静岡大会では準優勝を果たし、また2017年のドラフトでは、卒業生である鈴木博志(ヤマハ→中日)が1位でプロ入りするなど、県内では近年力をつけてきているチームの一つだ。
今回はそんな二俣のプレーをチェックすべく、6月21日に行われた島田樟誠、常葉大橘との練習試合に足を運んだ。
二俣は2試合ともに「1番・捕手」で先発出場。まず目立ったのは、やはり評判となっていた強肩だ。
捕手のセカンド送球は2.0秒を切れば強肩と言われているが、二俣はこの日の2試合で5度も1.9秒台を記録。最速で1.91秒という数字を叩き出している。
そして、そのタイム以上に際立っていたのがボールの勢いだ。
送球タイムが速くても、ボール自体に強さがないケースもあり、そのようなキャッチャーのボールは内野手が捕球してから走者にタッチするのが一瞬遅れ、アウトにできないことが多い。
だが、二俣のボールはセカンドベースを超えても、しばらく伸び続けていきそうな勢いを感じるのだ。この“球質”は高校生だけではなく、大学生や社会人を含めてもトップクラスである。
実戦でも、2試合で合計7度の盗塁を企画されていたが、そのうち5度もアウトにしている。対戦したチームも、二俣の肩を相手にどこまで走れるかを練習しているようにも見えた。捕球から送球への流れがさらに改善されれば、コンスタントに1.8秒台をマークするようになるだろう。
すでに木製バットも手に…
守備に関して言うと、長所はスローイングだけではない。
捕手にしては少し細身に見えるが、よく見ると非常に引き締まった体つきで、筋肉量は決して少なくない。特に下半身にバネがあり、一つ一つの動きに躍動感があるのも特長だ。ワンバウントの処理でも、しっかり足を使って正面に入ることができており、バント処理の時の出足も鋭かった。このあたりは、地肩に頼らずにしっかりとレベルアップを図ってきた証拠と言えるだろう。
バッティングはプロを意識してか、最初の3打席は木製バットを使用。第1打席でセンター前ヒットを放ったが、それ以降の2打席はミスショットが目立って凡退となった。木製バットの狭い芯で強くとらえる技術については、課題と言えるだろう。
だが、金属バットに持ち替えて以降は、ミートすることに窮屈にならずに思い切りの良いスイングが目立つようになり、第2試合では右中間への本塁打を含む4安打と大暴れを見せている。少し長打を狙ってオーバースイング気味になることはあるが、それでもヘッドスピードや打球の強さも十分だった。
また、トップバッターを任されているだけあって脚力は申し分なく、走塁に対する意識も強い。第2試合では二死からヒットで出塁するとすかさずスタートを切り、味方の長打の間に一気に本塁を陥れている。
投手としても「最速144キロ」
また、第2試合の7回からは投手としても登板した。
強肩を生かしたストレートは最速144キロをマークして、3回をノーヒット、打者9人で抑え込んで試合を締めた。少し野手っぽい投げ方ではあるが、しっかりと抑えの利いたストレートは威力十分でコントロールも安定していた。
何よりも捕手、そして1番バッターとして15イニング出場した後に、これだけのボールを投げられる体の強さは大きな魅力である。
走攻守の3拍子に加えて投手としての能力も高く、まさにチームの大黒柱として圧巻のパフォーマンスを見せてくれた二俣。進路は「プロ一本」で考えているとのことだが、この日訪れた3球団のスカウトも、そのプレーぶりには満足そうな表情を見せていた。
これだけあらゆる能力の高い捕手を、プロ側も放っておくことは考えづらい。7月11日から始まる代替大会でも、その万能ぶりを見せてくれることを期待したい。
☆記事提供:プロアマ野球研究所