ローテに帰ってきた背番号46
阪神タイガースの先発ローテーションで、秋山拓巳が奮闘している。
高卒11年目の右腕は4試合に先発し、防御率こそ4点台だが、2勝1敗。現在は週頭となる火曜日のマウンドを託され、懸命に腕を振っている。
2017年にキャリア最多の12勝をマーク。4勝を挙げて注目を浴びた高卒1年目から、長い苦闘を経ての飛躍だった。精密なコントロールと、球速以上にキレのある直球、多彩な変化球とのコンビネーションが武器。生え抜きの中心選手としての期待を背に、ステップを駆け上がって迎えた2018年は一転、精彩を欠いた。
5勝10敗の数字以上に、本人にとって誤算だったのは、シーズン途中から発症した右膝の強い痛み。投球時に踏ん張る役割を果たす軸足の不調は、背番号46から球威を奪った。
「野球人生の分岐点」
チームが上位を争っていたこともあり、シーズン終了を待って10月に手術。退院の際には「野球人生の分岐点になる」と再出発を誓った。
ただ、メスを入れたからと言って、劇的に右膝が改善することはなかった。それは、地道で忍耐のいる戦いの始まりでもあった…。
手術明け1年目となった昨年は、シーズン途中に昇格を果たすも、10試合の登板に止まり4勝3敗。取材する側も、1年を通して、本人から手応えを感じる言葉が聞こえてこない。
そんな中、マウンドでも明らかな“変化”があった。
「膝の状態とか、バランスを考えたらセットの方が良いという日が多かった」
本来は振りかぶるワインドアップを理想としながら、膝への負担や状態に応じて無走者でもセットポジションで腕を振る試合が少なくなかった。
「手術しても全然良くならない。そんなに甘くないですね」
“分岐点”が言霊となって、試練を与えているようだった。
理想を追い求めて復活
「やっぱり、ピッチャーは振りかぶって投げないと。それが僕の理想なんで」
決意を体現するように、高知県安芸市で行われた昨秋のキャンプでは、振りかぶって投げ込みを行った。
「だいぶタイミングが合ってきた」──。確かな手応えを胸に、今季を迎えていた。
今年2月から開幕前にかけて、実戦で28イニング連続無失点と圧倒的なスタッツを残し、2年ぶりに開幕一軍入り。コロナ禍でアピールが小休止となっても、「普通にやればローテーションには入れると思ってるので気にしていない」と、自信は揺るがなかった。
活動休止期間も走り込みの量を増やし、膝の状態は良化。むしろプラスに働いた。
7月14日のヤクルト戦(甲子園)。6回3失点の力投で待望の今季初勝利。初回の1球目から振りかぶって、99球を投げた。
ようやく戻ってこられた「原点」。苦しい日々を送ってきたからこそ、もう忘れたくない。振りかぶるという“自己表現”が、秋山拓巳の復活の証になる。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)