コラム

中日・大野雄大の遅すぎた“春”【白球つれづれ】

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中日・大野雄大

白球つれづれ2020~第31回・金曜日に投げる男


 「金曜に投げる投手として、情けなかった」。

 7月31日。ナゴヤドームのお立ち台に上った中日の大野雄大投手は複雑な表情を浮かべた。難産の末に掴んだ今季初勝利。開幕から白星を勝ち取ることが出来ず7試合目、ようやくエースの面目を保ったのだから手放しで喜ぶわけにもいかない。安堵の1勝と言っていいのだろう。

 この日は、同じく開幕から未勝利だったロッテの石川歩投手も楽天相手に初勝利を手に入れている。こちらも「何もいいところがなかった」とぼやきながらインタビューに応えている。何はともあれ遅すぎる春がやってきた。

 今季の開幕は6月19日、金曜日だった。この日に栄えある開幕投手に指名されたのは当然のことながら12投手。巨人の菅野智之、広島の大瀬良大地や西武のZ・ニール、楽天・則本昂大各投手ら錚々たる顔ぶれが並ぶ。大野や石川も名を連ねた。

 開幕投手とは各監督がこの1年間、チームの柱として命運を託すエースの証だ。近年の投手ローテーションは中6日の休養で回ることが多いので金曜に開幕すれば、エースの次の出番も金曜となる。ヤクルト・石川雅稚やオリックス・山岡泰輔投手らは故障やコンディション不良でローテーションから外れていった。

 雨天中止の多いセ・リーグではエースの登板日がずれていったりもしたが、大野の言う「金曜に投げる者」とは、エースとしての「矜持」「プライド」と置き換えてもいい。


エースとしての意地


 開幕を神宮のヤクルト戦で迎えた大野は、いきなり4回を6失点の大乱調で大任を果たせずに終わる。続く広島戦でも失点を重ね、リズムを崩していった。7月に入っても敗戦の数だけが増えていく。

 勝ち星がなければ、慎重な投球になりその結果、投球数が増えて早めの降板も起こりやすい。下旬の阪神戦では5回1点リードの場面で後続を救援に託したが逆転されて初勝利も逃げていく。
 
 ツキにも見放された長いトンネルからの脱出は、エースとしての意地がつかんだ。ヤクルト相手に4回までに3失点とこの日も暗雲が漂ったが、中盤以降は立ち直りチームも逆転。128球の完投勝利につなげた。8回終了時点で与田剛監督が大野の下に近寄ると、交代も含めた打診があったと言う。だが、大野の答えは「まだ行けます」と続投志願。何が何でも自らの左腕で白星を掴み取りたかった。

 完投は昨年9月の阪神戦以来。大野はこの試合でノーヒットノーランの快投を演じている。その結果、シーズンの最優秀防御率タイトルも手にした。難産の初勝利はエースに確かな手ごたえも蘇らせたに違いない。


エースという存在


 8月2日終了時点(以下同じ)の両リーグ投手成績を見てみると、セ・リーグのハーラートップは巨人の菅野で5勝0敗。一方でパ・リーグの最多敗戦投手は日本ハムの有原航平で1勝5敗。いずれも開幕投手だ。大野や石川も有原に近い「出遅れ組」と言えるだろう。ここにエースという立場の難しさと厳しさが表れている。

 つまり、エース同士の対決となれば、そのチームの最も力量のある投手が投げ合うのだから明暗がはっきりと分かれる。仮にまずまずの好投をしても相手エースがそれ以上の投球をすれば勝ち投手にはなれない。打線の援護を期待しても相手が凄ければ爆発は難しい。

 一方で「裏ローテーション」というものもある。通常のシーズンなら3連戦ごとに相手が代わるため、エースを最初のカードに登板させると次のカードに2・3番手の実力者が回るケースのことだ。今季で言えば楽天の涌井秀章投手の5勝や、ヤクルト・小川泰弘投手の4勝など勝ち運に乗りやすいのがこのケースだ。

 あるインタビューに応えてDeNAの今永昇太投手はエースの条件を語っている。

「僕なんかはまだまだ実績も含めてエースと呼ばれるのは違和感があります。エースとは菅野さんや千賀さん(ソフトバンク)のような圧倒的な存在でしょう。自分もそこに一歩でも近づけるようになりたい」。

 チームの命運を握る屋台骨がエースという存在である。やっとつかんだ初勝利を機に、大野が復活を果たせばチーム浮上の確立は上がる。梅雨明けの逆襲を期待したい。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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