ロマンあふれる“九州No.1右腕”
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、残念ながら今年の全国高校野球選手権および代表校を決める地方大会は中止となってしまった。それでも、各地で代替大会が行われ、プロ入りを目指す選手のアピールは続いている。
プロアマ野球研究所(PABBlab)では、そんな代替大会で活躍が光った選手についても積極的に紹介していきたい。
今回は、最終学年で驚きの急成長を遂げた“九州No.1の本格派右腕”を特集する。
マウンドの立ち姿は高校生とは思えない
この夏、最も評価を上げた選手といえば、山下舜平大(福岡大大濠)になるだろう。
旧チームから主戦として登板しており、昨年春の九州大会でそのピッチングを見ていたが、長身から投げ下ろす140キロ台前半のストレートには魅力があったものの、体はまだまだ細く、フォームのバランスがもうひとつという印象だった。
しかし、冬から春にかけて体力面で大きなスケールアップを果たし、そのスピードは最速153キロにまで達しているという。そんな山下の成長を確かめるべく、福岡地区大会の決勝戦:福岡大大濠-福岡が行われたPayPayドームまで足を運んだ。
前々日の準決勝に登板した際、6回に足をつって降板したと報じられていたが、この日も「7番・投手」で先発。まず目を見張ったのが、体格面の充実ぶりだ。
昨年春の時点では186センチ・80キロだったのが、現在は189センチ・93キロとサイズアップ。マウンドでの立ち姿はとても高校生のそれではなく、一人だけプロが混じっているようにも見えた。
カーブ以外の変化球を封印、その理由は?
変わったのは体格だけではない。立ち上がりは少し慎重に腕を振っているようにも見えたが、初回に投じた8球のストレートは全て147キロ以上をマーク。コーナーに決めるコントロールも安定するなど、この8球を見ただけでドラフト上位候補になることを確信した。
試合は両チーム無得点のまま、延長タイブレークに突入。福岡大大濠は11回裏に一挙3点を奪われ、3-4で逆転サヨナラ負けを喫したが、山下のピッチングは想像をはるかに超えるものだった。
福岡打線に延長11回(※タイブレーク)途中まで投げ、7本のヒットを打たれて奪った三振は6個。この数字だけを見れば、そこまで褒めるのはどうかという声も聞こえてきそうだが、これには“明確な理由”がある。「将来を考えて、山下を大きく育てたい」という八木啓伸監督の育成方針もあって、山下は高校入学以来、カーブ以外の変化球を封印していたのだ。
100キロ台のスローカーブがあるという話だったが、この日見た限りでは投げておらず、120キロ前後のボールだけ。その情報は当然、福岡もよく分かっており、ボールになるカーブには手を出さず、ストレートに対してシャープに振り出す打撃を徹底していた。
巨人のエースとして活躍した桑田真澄がPL学園時代、「あえて変化球はカーブしか投げていなかった」という話は有名であるが、最近では一種類の変化球しか投げないドラフト上位候補というのは記憶にない。
早くから多くの変化球を投げることについては賛否両論がある。ただ、この令和の時代にストレートとカーブだけでこれだけのピッチングができる点が、何より潜在能力の高さを裏付ける証左であろう。
最終回に「最速151キロ」
もうひとつ、興味深いデータがある。
この日投じた130球のうち101球がストレートで、1球だけスピードガンが表示されないボールがあったが、残り100球の平均球速は145.99キロ。しかも、5回までの50球の平均が145.5キロだったのに対して、6回以降は146.48キロと、後半にかけて球速がアップしていたのだ。
この日の最速は151キロだったが、それは最終回となった延長11回にマークしたもの。もちろん、スピードガンの数字だけが全てではない。とはいえ、これだけの速さのボールを、序盤から終盤まで安定して投げられるアマチュア投手はほとんどいないだろう。
体重移動のスピードについてはまだ物足りなさがあるが、それでもこれだけのボールを投げられるということが驚異である。ここからフォームに躍動感が加われば、“160キロの剛速球”を投げることも決して夢ではない。
スケールの大きさでは、山下は今年の高校生の中でも1、2を争う存在。ドラフト1位の有力候補であることは間違いないだろう。
高校生活最後の試合は悔しい結果に終わったが、次のステージでは、その悔しさを晴らして成長した姿を見せてくれることを期待したい。
☆記事提供:プロアマ野球研究所