アストロズは首位争い レッドソックスは低迷
今季のメジャーリーグは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で開幕が大幅にずれ込んだが、そんなコロナ禍以前に大きな話題となっていたのが「サイン盗み」スキャンダルだった。
2017年のワールドシリーズ覇者アストロズは、ビデオリプレーシステムの映像を不正利用したなどとされ、サイン盗みの事実が認定された。その結果、ヒンチ前監督が解任されたほか、ドラフト指名権をはく奪されるなどのペナルティーを受けた。
そんなサイン盗み騒動は、18年に世界一に輝いたレッドソックスにも飛び火。アストロズよりも幾分軽かったが、サイン盗みを働いていたと4月に認定されて処分を受けた。
通常なら2チームは激しいブーイングにさらされていたはずだ。しかし今季は開幕から無観客での開催であるため、そういった意味では救われている部分もあるだろう。それでも両チームは開幕から2週間ほどは苦しい戦いが続き、8月9日(現地時間)の時点では全く同じ6勝9敗という成績だった。
それからちょうど10日が経過。レッドソックスの借金は「3」から「11」に膨れ上がり、現在ア・リーグワーストの7勝18敗。現地時間19日の試合でようやく連敗を9で止めたが、チーム状態はまさにどん底だ。
一方、アストロズはこの10日間で息を吹き返し、現在14勝10敗。借金「3」から貯金「4」にV字回復を果たし、地区首位に立つアスレチックスに2ゲーム差まで迫っている。開幕前にサイン盗みスキャンダルに揺れた2球団。この10日間でアストロズは息を吹き返し、レッドソックスは泥沼9連敗を喫した。両者が明暗を分けた要因は何だったのだろうか。
明暗を分けた3つの要因
1つ目の要因は、この10日間における両チームの対戦相手にある。アストロズはこの10日間でジャイアンツ、マリナーズ、ロッキーズと対戦。ジャイアンツとマリナーズはいずれも地区最下位に低迷しているチームだ。
一方のレッドソックスは、地区ライバルで首位を争うレイズ、ヤンキースと4試合ずつ対戦。いずれも4連敗を喫した。アストロズは、低迷するチームとの対戦を浮上の足掛かりにしたが、対するレッドソックスは日程の巡り合わせも悪かった。
2つ目の要因は、打線の中核を担う主砲の存在だ。アストロズで主に3番を打つアレックス・ブレグマンは、昨季のア・リーグMVP投票で僅差の2位に入った大砲。9日時点の打率は「.219」と低迷していたが、その後は28打数11安打(打率.393)と調子を上げ、現在は「.272」。不振に陥るチームメイトのホセ・アルトゥーベなどを尻目に、自らに着せられたサイン盗みの汚名を返上しようと奮起している。
一方、レッドソックスで主に4番を担うのが昨季のMVP投票で5位に入ったザンダー・ボガーツ。9日時点では、打率.319と好調だったが、この10日間で33打数6安打(打率.182)と急降下。現在は打率を「.263」にまで下げている。
そして3つ目に挙げたいのが、最大の要因とも言えそうな投手力の差だ。アストロズはもともと高い投手力を誇っていたが、この10日間で戦った9試合のうち6試合で2失点以下と投手陣が奮闘。特にベテランのザック・グリンキーがこの間、2試合に登板して14回1/3を1失点と、エース級の活躍を見せている。
対するレッドソックスは先発・救援陣がそろって崩壊。連敗中の9試合は合計86失点(1試合平均9.6失点)を喫した。昨季ローテーションを担った先発陣は故障、移籍、不調などでほぼ全滅。その台所事情は近年稀に見る苦しさだ。
ともにサイン盗み騒動によって、悪い意味でスポットライトを浴びたアストロズとレッドソックス。より処分が重かったアストロズがこのまま地区優勝争いに絡んでいくのか――。レッドソックスは落ちるところまで落ちてしまうのか――。サイン盗みスキャンダルに揺れた2球団の今後に、引き続き注目していきたい。
文=八木遊(やぎ・ゆう)