コラム

708日ぶりの一軍登板! 西武・内海哲也はなぜ今も巨人ファンから愛されるのか?

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オリックス戦に先発し、6回4失点の西武・内海=京セラドーム
2020.08.22 14:00
オリックス・バファローズ 5 終了 2 埼玉西武ライオンズ
京セラD大阪

プロ17年目のリスタート


 三塁側内野席で西武の背番号27のレプリカユニフォームを着た女性客は、内海哲也がマウンドへ向かうと巨人時代の背番号26のオレンジ色タオルを掲げていた。

 8月22日、京セラドームで行われたオリックスvs西武で内海は移籍後初登板初先発のマウンドへ。観客5000人上限のチケットは完売。過去の内海グッズを持参する熱心なファンも数多く見守る中、奇しくも敦賀気比高時代にドラフト1位指名を受けたオリックス相手の復帰戦である。

 炭谷銀仁朗のFA人的補償として移籍1年目の19年は、早々に内海プロデュースのダブルチキン弁当の本拠地発売が決まり、5月にはボブルヘッド付きチケットが販売されるなど、戦力だけでなく集客面も期待されるVIP待遇。しかし、春先に左前腕肉離れで離脱、10月には筋腱修復手術も受けた。通算133勝左腕にとって、この夏がプロ17年目のリスタートだ。

 2018年9月14日以来の一軍登板の立ち上がりは上々で、直球のほとんどは130キロ台中盤だが、チェンジアップやカーブを駆使した老獪な投球術と制球力は健在で、3回までオリックス打線を無安打1死球に抑える。対する相手先発の張奕は、2回には3者連続三振を奪うなど26歳の若さと馬力で押しまくった。

 4回裏、内海は自身の送球エラーもありピンチを作ると、5番アダム・ジョーンズに初球のチェンジアップを捉えられ先制3ランを浴びてしまう。38歳の元巨人のエースが崖っぷちなように、中嶋聡監督代行に代わり4番を外された35歳の元メジャーのスーパースターもまた必死だ。

 高校野球が青春を懸けた舞台ならば、中年男たちの人生を懸けたサバイバルこそ、プロ野球の魅力である。6回にもジョーンズがまたも初球を左中間スタンドへ2打席連続アーチを叩き込む。この2発に泣いた復帰戦は、終わってみれば6回92球3安打4失点(自責点3)。6回の最終打者・杉本裕太郎からこの日4つ目の三振を奪い、内海は通算1500奪三振を達成した。


ベテラン左腕が愛される所以


 懐かしいな……。京セラドームの三塁側内野席から、その投球フォームを見つめながら何度もそう思った。巨人時代も12年CSで中日のブランコに手痛い一発を浴びたり、ヤクルト時代のバレンティンにもよくホームランを打たれていた。内海は、多少形を崩されてもスタンドへ運ぶパワーがある右の助っ人スラッガーを苦手にしていたイメージがある。

 振り返れば、15年7月29日の内海一軍復帰戦も仕事を早めに切り上げ新幹線に飛び乗って、京セラドームまで見に来た記憶がある。DeNA戦で先発登板するも、背番号26は試合中に左太もも裏がつるアクシデントに襲われ7回途中3失点で降板。その試合でサヨナラアーチを放ったのは内海と同い年の82年組、亀井善行だった。

 2004年から05年にかけて、暗黒期と呼ばれたチーム低迷期の堀内監督時代にデビューしたのが、当時若手の内海であり、亀井である。彼らは菅野智之や長野久義(現広島)のようにプロ入りしてすぐ一軍で活躍した選手ではない。

 内海は東京ガスから、祖父もプレーした憧れの巨人軍へ自由獲得枠で入団も1年目未勝利に終わり、2年目の05年は26試合で4勝9敗、防御率5.04という成績に終わっている。そこから地道に這い上がり、ときに原監督から「ニセ侍」や「論ずるに値しない」なんて叱咤激励されながら、巨人のエースにまで登り詰めた。

 エースであると同時にリーダー。派閥をなくし風通しのいいチームを作ることを目指し、自分が投手陣を引っ張るんだと自主トレに若手を積極的に誘い、ハードな練習を見せてお手本に。テレビの巨人戦地上波中継が激減した時代に日テレ『ズムサタ プロ野球熱ケツ情報』で、明るい隣の兄ちゃんキャラとして度々登場。“孤高のエース”ではなく、“親しみやすいエース”からプロ野球に興味を持った新規ファンも多い。

 巨人歴代エース伝統の「右の本格派」ではなく、全盛期は「左の技巧派」。そのプレースタイルもキャラクターも異色の存在だったが、原巨人の二度のリーグV3は背番号26の存在なくして達成されることはなかっただろう。11年、12年と2年連続最多勝を獲得、年俸4億円にまで達したが、30代を迎え徐々に故障がちとなり、成績も年俸も急激に落ちていく。17年は2勝7敗、18年は5勝5敗、オフにFA人的補償で西武へ。

 そして、故障に苦しみながらも、今季はイースタン・リーグで6試合30イニングほど投げ、2020年8月22日に708日ぶりに一軍のマウンドへ帰ってきた。正直、もうエースでもなくリーダーでもない、西武ではひとりのベテラン投手として再出発。この十数年、ファンはその成長も栄光も挫折も苦悩も目撃してきた。つまり、内海が歳を取ったということは、同時代を生きた我々も歳を取ったということだ。

 お互い色々あった……なんつって、38歳サウスポーの野球人生を追いかける。入れ替わりの激しい野球界、長い時間を共有できる選手とそう出会えるもんじゃない。ここまで来たら、とことん最後まで付き合うよ。


 23日に登録抹消されたが、辻監督は再び先発機会を与えることを示唆している。恐らく、ファンはまた内海哲也を見に球場へ行くのだろう。

 個人的にひとつ決めていることがある。今度、この男に拍手を送るのは「復帰」じゃなく、通算134勝目を挙げて「復活」をした時にしようと思う。

 See you baseball freak……


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
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