コラム 2020.08.25. 07:09

最後まであきらめるな!こんなにあった、球史に輝く“史上最大の大逆転劇”

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10点差をひっくり返す大逆転劇! (C) Kyodo News

史上最大の逆転劇といえば…?


 最初にクイズを出題します。プロ野球史上「最大得点差」の大逆転劇は…?

 答えは「10点差」。これまでに4度も記録されている。


 最初は1リーグ時代の1949年10月2日。大映スターズ−大陽ロビンス(京都・衣笠)の一戦だ。

 この日はダブルヘッダーで、第1試合は3本塁打を放った大映が10−3と大勝。大映は第2試合でも初回に1点を先制すると、3回に伊賀上良平の1イニング2本の二塁打を含む7安打・2四球の猛攻で一挙9点を追加。10−0とリードを広げた。2試合続けての一方的な展開に、スタンドからは「金返せ!」のヤジも飛んだ。

 これに奮起したのか、大映のルーキー・小川善治に5回まで1安打と沈黙していた大陽打線は、6回に3点を返して反撃の狼煙を上げる。7回に3番・藤井勇の満塁本塁打で7−10と追い上げると、8回にも2番手・姫野好治から2安打と四球、暴投で2点を奪ったあと、二死一塁で藤井が左中間への二塁打を放ち、ついに同点。3回途中からリリーフし、毎回のように安打を許しながらも、4回以降を無失点に抑えた江田貢一の粘投も光った。

 そして9回、勢いにのる大陽打線は、3番手・木場巌から二死満塁のチャンスをつくり、1番・田川豊の左手をかすめる押し出し死球でサヨナラ勝ち。史上初、「0−10からの大逆転勝利」となった。


2回目の大逆転も“同じ球団”が達成


 大陽は翌1950年、映画会社の松竹と提携。球団名が松竹ロビンスに変わるが、1951年5月19日の大洋ホエールズ戦(大分・春日浦)で、再び10点差逆転の奇跡を起こす。

 林茂、井筒研一の2投手が計5本塁打を浴び、6回終了時点で2−12と大きくリードされた松竹だったが、終盤に小鶴誠が2打席連続3ランを放つなど猛反撃に転じ、一気に2点差まで詰め寄る。2年前の大映在籍時に10点差をひっくり返された小鶴が、今度はロビンスの一員として大逆転劇に貢献するのだから、不思議な因縁である。

 そして9回、一死一・二塁という場面で、7回からリリーフした小林恒夫が値千金の逆転3ラン。最終的には13−12で逃げ切り、史上2度目の10点差逆転劇が実現した。


 投手は先発完投が当たり前という時代。大洋は大量リードにもかかわらず、エース・高野裕良を9回途中・17安打されるまで引っ張ったことが、大逆転を許す結果を招いた。

 その後、継投策が多用されるようになると、スタミナ切れの先発投手を続投させるケースも減り、わずか3年の間に2度も起きた大逆転劇も、半世紀近く途絶えることになる。


近鉄“いてまえ打線”、球史に残る猛反撃


46年の空白を経て、3度目の奇跡が起きたのが、1997年8月24日のロッテ−近鉄(大阪ドーム)だ。

 石毛博史が右肩故障で抹消されるなど、先発陣が駒不足の近鉄は、10日前のオリックス戦で約5年ぶりに先発した中継ぎ要員の佐野重樹を先発させた。オリックス打線を7回1失点に抑えた実績を買っての再起用だったが、この日の佐野は立ち上がりから乱調。初回に6長短打を浴び、いきなりの5失点。2回にも堀幸一、小坂誠に連打され、一死も取れずKOとなった。

 2番手・南真一郎も3安打に2四球とピリッとせず、2回終了時点で0−10。「選手にまったくやる気がない」と憤慨した近鉄応援団は鳴り物を中止し、応援をボイコットした。3回、近鉄は村上嵩幸の左越えソロで1点を返し、4回にもクラークの中越えソロが飛び出したが、2−10。ここまではまだ焼け石に水の感があった。


 ところが5回、連打と四球で無死満塁としたあと、水口栄二のタイムリーにクラークの犠飛、鈴木貴久のタイムリーなどで4点を返して6−10。ボルテージが上がった右翼席では、応援が再開される。

 近鉄は7回にも水口・ローズ・クラークの3連打でチャンスを広げ、大石大二郎のタイムリーなどで3得点。ついに1点差まで詰め寄った。こうなれば、追う者の強み。9回一死から鈴木貴久が右越え二塁打。代走・武藤孝司の三盗が敵失を誘発し、ついに10−10と追いついた。

 そして延長12回、二死から代打・山本和範が四球のあと、水口の安打とローズ敬遠で満塁とし、クラークが中越えに快打。サヨナラのホームを踏んだのは、投手の代走・入来智だった。

 佐々木恭介監督は、「実は9−10になったとき、コメントを考えてたんや。もし負けても、10点差を追い上げた打線は、賞賛に値する。このナインと野球ができたことが嬉しいとな」と想定外の劇的勝利にご機嫌だった。


ヤクルトが起こした“4度目の奇跡”


 それから20年後、今度はヤクルトが4度目の奇跡を起こす。

 2017年7月26日の中日戦(神宮)。7月に入って14連敗を含む2勝15敗1分と元気のないヤクルトは、この日も中日の先発・大野雄大に散発の3安打に抑えられ、6回を終わって0−10。

 だが、7回二死から飛び出した代打・中村悠平の左越え2ランが、眠っていた打線を目覚めさせる。8回に3番・バレンティンの左越え2ランなど8長短打を集中し、一気に追いついた。

 そして、延長10回一死、代打・大松尚逸が伊藤準規の初球、147キロ直球をフルスイングすると、高々と上がった打球は、ヤクルトファンが総立ちで迎える右中間席へ。劇的なサヨナラ弾となって吸い込まれていった。

 殊勲の大松は「『ライトスタンドのファンの皆さんの声援で伸びてくれ!』と思ってました。みんなの気持ちが最後にいい形でつながって良かった」と、チームとファンが一体となっての奇跡的勝利に感激もひとしおだった。

 だが、史上4例しかない大逆転勝ちを演じたヤクルトも、終わってみれば、45勝96敗2分で、1位・広島と44ゲーム差の最下位。近鉄は3位に食い込んだが、大陽は8チーム中最下位、松竹も7チーム中4位だったことを考えると、やはり打線は水物、野球は投手で決まるということか…。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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