チームの泣き所「3番」の救世主に?
思わぬ“告白”に、球場は笑いに包まれた。
「正直、あんまり好きじゃないです…」
甲子園のお立ち台に上がった阪神タイガースの陽川尚将は、ネタで渡された「バナナ」を握りしめて言った。
チーム内では「ゴリラキャラ」が定着。ホームランを放った際にはナインはもちろん、矢野監督も胸を叩くポーズで出迎えている。
この夜も「ゴリラポーズ」が聖地にさく裂した。8月26日の中日戦。見せ場は1点劣勢の6回、一死一・二塁で迎えた第3打席だった。
1ボール・1ストライクから中日・福谷浩司の投じた136キロのフォークを強振。打球は大きな弧を描いて左翼スタンドに着弾した。
起死回生の逆転3ランは今季1号。待望の快音は、チームの“悩み”も解消する価値ある一発と言えた。
前日25日、2年ぶりとなる「3番」でスタメン出場。チームとしては、16日~23日の直近7試合で先発した3番打者が22打数無安打とブレーキになっていたところで、犠飛とタイムリーの計2打点を挙げて勝利に貢献していた。
結果を残したことで、つかみ取った2試合連続での「3番」。
「長打力が持ち味なんで、結果として出て良かった」
勢いそのままに、自慢の長打力を見せつけて11-3の大勝へと導いてみせた。
「結果を残して恩返しできるように」
今季68打席目で飛び出した待望の放物線は、感謝の証でもあった。
「これだけいろんな人にサポートしてもらってるんで。僕はシーズンで結果を残して恩返しできるようにしたい」
年が明けたばかりの1月、和歌山で力強く誓っていた。
3年目の2016年から春季キャンプ前の自主トレ拠点としてきたのが、同県にある上富田スポーツセンター。二軍公式戦も行われる両翼98メートル、中堅122メートルの野球場を“独占”して汗を流している。
ウエート場も隣接しており、すべてのメニューを終えた時にはいつも日が暮れる。自分と向き合い、新たな1年へ気持ちを高める特別な場所だ。
サポートするのは、地元の球場関係者や母校・東農大の仲間たち。打撃投手の1球、ノッカーの1球に『陽川頑張れ』の願いが込められている。
そんな思いを受け止めながら毎年、決意を新たにしてきた。
特に7年目の今年は「チャンスは少ないと思うんで、結果を出し続けてアピールしていかないといけない」と、勝負の一年と位置づけていた。
支えてくれた人たちへの感謝。そして、逆襲への咆哮。白星をたぐり寄せただけでなく、聖地で放った逆転3ランには、背番号55にとって大きな意味があった。
「もう僕は1打席で勝負しているんで。しっかり悔いのない打席を、と考えながらやっている」
秘める思いをフルスイングで体現していく。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)