2020.09.01 18:00 | ||||
読売ジャイアンツ | 3 | 終了 | 2 | 横浜DeNAベイスターズ |
東京ドーム |
白球つれづれ2020~第35回・巨人のドラフト戦略
原・巨人が早々と打ち出した今秋のドラフト戦略が各方面に波紋を広げている。
8月28日にジャイアンツ球場(川崎市)内で編成会議を行いドラフト戦略などを協議。終了後、大塚淳弘球団副代表がその方向を説明した。
「1位は即戦力の野手。昨年、一昨年と高校生中心だったので今年はピッチャーも即戦力」としたうえで「うちに今足りないのはピッチャーと外野手。特にパワーヒッターが足りない」。
こうした発言を受けてマスコミの注目を集めたのが近大の佐藤輝明選手だ。187センチ、92キロの巨漢に加え圧倒的な飛距離は「大谷(エンゼルス)クラス」と評される右投げ左打ちのパワーヒッター。現在は主に内野を守っているが外野手も経験済みで、走攻守三拍子揃うプレースタイルから「柳田二世」の呼び声も上がっている。
巨人の外野は外様頼み!?
確かに最近10年の巨人のドラフト1位指名を見てみると、野手は13年の小林誠司(捕手)、14年の岡本和真(内野手)と16年の吉川尚輝(内野手)の3選手だけ。外野手はいない。
かつては松井秀喜氏や高橋由伸前監督など人気と実力を兼ね備えたスター選手を輩出したが、今季の顔ぶれを見るとFAで移籍した丸佳浩やシーズン途中で楽天から獲得したZ・ウィーラー選手ら「外様組」に頼っているのが現状で、いずれも30代の年齢を考えると、要補強ポイントであることは間違いない。
だが、これまで巨人がこの時期にこれだけ具体的にドラフト戦略を明らかにしたことはない。ドラフトへの対応は当日まで「秘中の秘」がこれまでの常識。それだけにあまりのオープンぶりに他球団関係者は首を傾げるむきもある。策士で鳴る原辰徳監督ならではの“陽動作戦”ではないかというわけだ。
今年に入って前スカウト部長を事実上、更迭して人事を刷新。また全国のOBから情報を吸い上げる新スカウト方式を採用するなど全権監督ならではのチーム改革を進めている。そんな指揮官だから外野手の1位指名を公言しながら一転、投手の指名もあり得る。また、前述の佐藤選手に限らずスケールの大きい外野手を探して来い、というスカウト陣への檄かも知れない。
気になるエースのメジャー挑戦
一方で、外野手のドラフト1位指名を明らかにしたことは別の注目も集めている。それがエース・菅野智之投手の去就問題だ。
今季は開幕以来、負け知らずの無双ぶり。8月25日のヤクルト戦では無敗の連勝を「9」に伸ばし、球団では伝説のスタルヒン以来82年ぶりの快挙を達成した。(31日現在、以下同じ)その大黒柱にはこの数年、抱いている夢がある。メジャーへの挑戦だ。
「いつか、チャンスがあれば(挑戦してみたい)気持ちはある」とも語っており、メジャーが菅野の動向に注目しているのも事実だ。昨年こそ腰痛で不本意な成績に終わったが、見事な復活ぶりでその評価は再浮上、本人の意向と球団との話し合い次第では、今オフにも去就に大きな注目が集まる可能性はある。
1年間の“野球浪人”を経て巨人入りした菅野はプロ8年目、今年の10月には31歳となる。ちなみに現在メジャーで活躍する日本人エースたちの転身時期を見てみる。カブスのダルビッシュ有はNPB時代7年間で93勝、ヤンキースの田中将大は同じく7年間で99勝、さらに今季からツインズに移籍した前田健太もNPB8年間で97勝をあげて海を渡っている。
メジャー挑戦の年齢で見ると高卒の分、ダルビッシュ25歳、田中26歳、前田28歳と若いが、国内の実績では菅野も現時点で95勝と遜色ない。年齢面も考えると菅野がメジャー行きを決断するならこの1~2年が限度と言えるのもまた事実だ。
残留が既定路線?
ここからは個人的な独断となる。巨人がこの秋のドラフトで即戦力外野手の1位指名方針を明らかにしたことは菅野の去就と大いに関係があるのではないか? つまり残留の方向が見えたのではないだろうか? と言うことだ。
仮にメジャー挑戦の意思が固かったり、今オフに本格的な話し合いに入るならチームにとって生命線を握る一大事。絶対に野手ではなく投手の1位指名にこだわるはず。即戦力候補を2人くらい獲っても穴が埋まる確証すらない。
菅野にとって原監督は叔父にあたる。浪人までして入団した“巨人愛”は人一倍強い。この二人が今後についてどんな会話をしているのかはうかがい知れない。それだけに早くも飛び出したドラフト戦略とその真意が注目される訳である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)