後半戦を熱くするキーマンたち~第1回:中田翔(日本ハム)
コロナ禍のプロ野球は全日程のほぼ半分を消化し、「後半戦」に突入した。
例年なら行われるセパ交流戦もなく、区切りのオールスター戦もない。さらに、異例の6月開幕の影響なのか、故障者が続出したり、各チームとも連戦続きで投手陣のやりくりに頭を悩ませている。
そんな中で、豊富な戦力層を誇る巨人とソフトバンクが抜け出して来たのは必然か…?
しかし、勝負の行方はこれからが本番。ペナントをかき回し、主役に躍り出そうなキーマンたちを探ってみたい。
今季の中田はひと味違う!
過去に打点王2度、WBCなどの国際大会で日本代表の4番も務めた中田翔だが、近年の評価は微妙だ。
豪快な一発を放つかと思えば、チャンスにあえなく凡退。最近のパ・リーグのバットマンレースでは、柳田悠岐(ソフトバンク)や山川穂高(西武)らの名前が出ても、中田の存在はどこか薄くなっていた。
だが、今季は違う。
9月3日終了時点で、「22本塁打」と「75打点」は共にリーグトップ。セ・リーグにもこの数字を上回る者はおらず、目下“二冠”を独走中だ。
2日の楽天戦では、今季絶好調の楽天・涌井秀章からセンター右に5試合ぶりの一発。これが、本拠地・札幌ドームで放った今季10本目のアーチだった。
「日本一、ホームランの出にくい球場。これまで何本、損してきたか…」とぼやいてきた男が、今季32試合で10本の量産だから、その好調ぶりがうかがえる。
あの人も「あっぱれ」
120試合に換算してみると、「41本塁打」・「105打点」というペース。その巨体から放たれる打球は、豪快そのものだ。
だが、打撃に対する取り組みは繊細で真摯そのもの。毎年のように打撃フォームは変わり、いつも“その先”を追求してきた。
今季を前に取り組んだのが、「8割の力でバットのヘッドを利かす」こと。
昨年までは怪力に頼ったフルスイングで引っ張りの多い、典型的なプルヒッターだった。しかし、新打法では、構えたときの右腕に余計な力を入れず、「脱力系」に近い形に挑戦。これによって、バットのヘッドが従来以上に走るようになった。
腕だけでなく、体全体でボールを捉えられているから飛距離も出る。加えて、従来なら引っ張っていた外角球をコースに逆らわずに弾き返せるから、右方向の本塁打も増えているのだ。
開幕直後の6月が10試合で5本塁打。7月は7本、8月は9本と、コンスタントに量産できているのが、新たな手ごたえを生む。
また、本塁打がこれだけ打てれば、打点が増えるのも必然。辛口評論家で知られる球団OB・張本勲氏も「バットにしなりがあってフルスイングでなくてもスタンドに放り込める。落合(博満)並みか、それ以上にいい」と、スポーツニッポン紙上で激賞した。
変身した主砲がパを盛り上げる
ちょっと、やんちゃなお山の大将。野球漫画なら欠かせないようなキャラクターの持ち主だが、人一倍悩んだ時期もある。
2017年にはFA資格を取得。移籍騒動の渦中にあって、特に阪神とは相思相愛の関係と目されていた。
「FA宣言した選手は引き止めない」というチーム方針もあり、退団も確実と思われたが、この年は極度の打撃不振(打率.216・本塁打16)に陥ってしまう。
その結果、中田が下した決断は「不甲斐ない成績でチームを去ることは出来ない」と、FA宣言せずに残留というものだった。
あれから3年…。悩みも吹っ切れて、その輝きはかつて以上のものになった。
チームは現在、勝率5割の近くを行ったり来たり。歯がゆい位置にいる。だが、首位を行くソフトバンクとの差は大きいが、ロッテや楽天はまだ手の届く距離にいる。
開幕直後は貧打に泣かされたが、故障で戦列を離れていた近藤健介が戻り、西川遥輝や渡邉諒、大田泰示ら、中田の前後を打つ選手たちの調子も悪くない。投手陣がもう少し整備されればAクラス浮上からプレーオフ進出も見えて来る。
「まだ、個人的な数字を意識する時期じゃない。自分としては常に本塁打以上に打点を心掛けている。チームの勝利に貢献する意味でも打点を稼いでいければ」
興味深い数字がある。ここまでのライバルたちの“四死球数”だ。
柳田が52個、山川は59個(そのうち死球が1)に対し、中田は36個の少なさ。最大の理由は前後を打つ打者との関係で、特に今季の西武の場合、山川と共にクリーアップを組む打者が固まらない。柳田と同様に、勝負を避けられるケースが多くなる。
加えて、中田のもう一つの顔が“併殺王”。今季も10個の併殺はリーグワーストだから、相手ベンチとしては勝負したくなる要素もあるわけだ。いずれにしろ、打数が増えれば、本塁打も打点の確率も上がる。
変身・中田のバットが、さらなる混戦パ・リーグを予感させる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)