ついに海外FA権を取得
9月10日(木)、ある男がプロ野球選手としてひとつの節目を迎えたのをご存知だろうか。
その男とは、日本ハムの杉谷拳士。高卒12年目の29歳は、累計の一軍登録日数が9年を超えたため、晴れて海外FA権を手にした。
本日、海外FA権を取得した杉谷選手✈️
— 北海道日本ハムファイターズ公式 (@FightersPR) September 10, 2020
視線の先にはアメリカ…ブロードウェイ??🕺#羽撃く #100BASEBALL #lovefighters pic.twitter.com/FYqUH0vBa1
“球界のエンターテイナー”としても知られるファイターズの元気印。8月20日の楽天戦では、送りバントの際に跳ね返った打球が左手を直撃。ファウルになったにも関わらず、素知らぬ顔で一塁に走るという「バント詐欺未遂事件」がファンの間で大きな話題を呼んだ。
ほかにも、お家芸となっているのが、身体をかすめるようなボールが来た際の必死のアピール。「当たった!当たった!」と球審に訴えかけるパフォーマンス(?)も今やすっかりお馴染みとなったが、思い返して見ると、過去には当たってもいないのに「当たった!」とハッタリをかます選手もいた。
代表的な存在と言えば、広島で名捕手として活躍した達川光男。珍プレー好プレーなどでは必ずと言っていいほど登場する、この道の第一人者であるが、実はこれは達川に限ったことではない。過去には多くの“グラウンドの詐欺師”が存在した。
今回は、そんな彼らによる、ある意味で痛快な事件簿の数々を紹介していきたい。
あの名将もやった、若き日の「おとぼけプレー」
22歳のルーキーとは思えない「おとぼけプレー」で相手バッテリーを一杯食わせたのが、後の阪急監督時代に3度の日本一を達成する上田利治(広島)だ。
1959年6月20日の大洋戦。4-1とリードで迎えた6回二死、四球を選んだ上田はゆっくりと一塁へ向かったが、捕手・土井淳から返球を受けた宮本和佳が無警戒でボールに砂をつけていると、突然の全力疾走で二塁へ。
土井に注意され、宮本が慌てて送球した時にはすでに手遅れ。四球で一気に二進した上田は、「このケースで成功したのはこれで2度目。前にも国鉄戦で一度やりました」と涼しい顔。直後、興津達雄のエンタイトル二塁打でダメ押しの5点目のホームを踏んだ。
達川が登場する以前から、広島の捕手は伝統的に抜け目がなかったようだ。
達川光男の「死球詐欺」事件簿
つづいて紹介するのは、みなさんもお待ちかね(?)、達川の「死球詐欺」事件簿である。
まずは1986年10月18日。西武との日本シリーズ第1戦でそれは起こった。
8回に先頭打者として登場した達川は、東尾修が投じた内角球にガックリ膝をつくと、右手で左手首を押さえて「当たった!」とアピール。
だが、シーズン中から“常習犯”とあって、たちまち嘘と見破られてしまい…。結局、この打席では三振に倒れる。
しかし、これで引き下がらないのが達川のすごさ。
21日に行われた第3戦でも、3回一死から打席に立つと、カウント1-1から郭泰源が投じたインハイのストレートがバットに当たり、打球は郭の前にコロコロ…。ここで達川はすぐさま左手の手袋を取ると、球審に「見て!見て!」と死球をアピールしたのだ。
ところが、審判の見解は「手に当たったが、打ちに行っているから」ということでストライク。第1戦に続いて三振となった。
とはいえ、投ゴロでアウトにされても仕方がないところを、名演技で話をすり替えてしまうのだから、油断も隙もない。
そして、その試合の8回、二死一・二塁の場面でも“見せ場”が…。
渡辺久信の内角球を避けきれず、右胸に当てて仰向けに倒れ込むと、実況アナが「今度は本当に当たった!!」と絶叫。
しかし、ここでは先ほどまでの必死さが嘘のように、何事もなかったようにケロリとした顔で一塁へ…。これにはスタンドも大爆笑だった。
このほかにも、1990年5月24日の阪神戦では、4回無死二・三塁のチャンスで足に死球を受けながら、暴投を装って三塁走者の生還をアシストするために「当たっていない!」と言い張ったこともあったが、これもバレてしまった。
ふだんと逆の行動を取れば、確かに怪しまれても仕方がない…?
見事な“演技力”で審判をだました大洋・若菜嘉晴
ボールが入っていないミットで本塁を衝いた走者に空タッチし、演技力でアウトにしてしまったのが、大洋時代の若菜嘉晴だ。
1987年8月4日の巨人戦。8-4とリードして迎えた8回、石井雅博の右中間二塁打で、一塁走者・中畑清が一気に本塁を衝いた。
返球を受けた若菜は、スライディングしながら左手で本塁ベースに触れようとしていた中畑にミットでタッチ。ところが、そのとき、ボールは右の小脇に抱えたままだった…。
明らかに空タッチなのだが、平光清球審の位置からはボールが死角になって見えなかったことが幸いした。
まさかのアウト判定に、王貞治監督が「空タッチに見えた」と抗議したが、判定は変わらず。
試合後、若菜は「もう一度やれと言われても無理。実は、中畑にもタッチしていなかったんだ。セーフのコールでも仕方なかったんだ」と、なんと空タッチも“空振り”だったことを認めている。
阪神・福留孝介の頭脳的なトリックプレー
捕手の話ばかりが続いたが、最後は外野手のトリックプレーを紹介しよう。
頭上を越える長打コースの打球を、あたかも捕球するかのように正面でグラブを構え、まんまと走者を欺いたのが、阪神・福留孝介だ。
2015年4月1日のヤクルト戦。1点差に追い上げられた阪神は8回、一死一・二塁のピンチを迎え、川端慎吾の鋭い打球が右翼フェンス際を襲った。抜ければ、最低でも同点は免れない。
そんな中、ライトを守っていた福留は「自分の守備位置では追いつけない」と悟ると、打球が頭上を越えていくのを知りながら、クルっと顔を本塁側に向けて、自信満々に捕球するポーズをとった。
これを見た二塁走者・荒木貴裕は右飛と思い込み、二・三塁間に立ち止まる。ところが、その直後、福留は素早く後ろを振り向くと、フェンスに当たって跳ね返ってきたクッションボールを処理。
騙されたと知った荒木は慌てて本塁を衝いたが、スタートの遅れがアダとなり、タッチアウトになった。
ふだんの練習中に打球を追いかけながら、打球の高さや守備位置などから、追いつけるかどうか瞬時に判断できる感覚を磨いていた、という福留のスーパープレー。
これには「記者席から見ても捕ると思った?記者も騙せたなら、良かったよ」とニンマリ。トリックプレーで同点打を阻止し、チームは2-1で逃げ切り勝ち。まさにエイプリルフールならではの騙し技だった。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)