7球団のスカウトが四国に集結
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、高校野球だけではなく大学野球も大きな影響を受けている。
例年6月に行われている『全日本大学野球選手権』は中止となり、春のリーグ戦もほとんどの試合が行われなかった。
それでも、“運命の一日”は刻一刻と近づいて来ている。プロの舞台を目指す4年生にとっては秋のリーグ戦が最後のアピールの場になるが、プロアマ野球研究所(PABBlab)では、こんな情勢の中でも活躍が光った選手について積極的に紹介していきたい。
今回取り上げるのは、四国に現れた“異色の経歴”を持つ快速右腕だ。
四国の大学リーグにプロ注目の右腕
四国にある13チームによって構成されている、四国地区大学野球連盟。
リーグ戦のパンフレットによると、過去にNPB入りした選手は、天野浩一(四国学院大→広島/01年10位)、福田岳洋(高知大→京都大学・大学院→Ritsベースボールクラブ→四国IL香川→横浜/09年5位)、高野圭佑(四国学院大→JR西日本→ロッテ/15年7位)の3人だそうだ。
ちなみに、これは全国で26ある大学野球連盟の中でも最小の数字。しかし、そんな四国地区大学野球連盟に、プロの注目を集めている選手が存在している。それが四国学院大のエース・水上由伸だ。
水上は山梨県にある帝京第三高の出身。そこでは茶谷健太(現・ロッテ)の1学年下でプレーをし、最終学年ではエースとして活躍しただけでなく、投手・野手両面で注目を集め、3年時にはプロ志望届も提出している。
結局、当時は指名がなかったものの、四国学院大では1年春から外野手として出場。いきなりベストナインを獲得してみせ、2年春には5割を超える打率で首位打者にも輝いている。
大学では珍しい…投手と野手で大活躍
投手に再転向したのは、なんと昨年の秋のこと。そんな中、いきなり4勝をマークして最多勝・最優秀投手・ベストナインの投手三冠を獲得する。
高校野球では、投打両面で主力である選手は珍しくないが、大学で投手・野手の両方で活躍する例は滅多にないだろう。これだけでも能力の高さがよく分かる。
そんな水上の実力を確かめるべく、秋季リーグ初戦となる9月12日の高知大戦を取材した。
立ち上がり、先頭打者にヒットで出塁を許したものの、自らの牽制で刺すと、続く打者には自己最速となる150キロをマーク。
結局、初回を3人で片付けると、続く2回からはエンジン全開でアウトを積み重ね、最終的には7回を被安打3、無四死球の8奪三振というほぼ完璧なピッチングで、チームを開幕戦勝利に導いてみせた。
この日、ネット裏には7球団のスカウトが集結していたが、大きなアピールとなったことは間違いないだろう。
元巨人・上原浩治に似たフォーム
フォームは少し重心が高く、ステップの幅もあまり広くないように見えるが、だからといって下半身が使えていないわけではない。
軸足にしっかりと体重を乗せてからステップしており、左足の着地でもしっかり体重を受け止めることができているので、リリースも安定している。テイクバックで引っかかることなくスムーズに肘が高く上がり、縦の鋭く腕をふることができるのも長所だ。
フォームの雰囲気は、上原浩治(元・巨人)に通じるものがあった。
三塁側から見ると少し体重が後ろに残っているのは気になるところだが、逆に言えば、それが改善されれば、さらにストレートの勢いはアップする可能性は高いだろう。
この日は、降板するまでに39球のストレートを投じたが、そのうち29球が145キロ以上で、平均球速は145.9キロ。これはプロの先発投手でも上位の数字である。
変化球も130キロ前後のスライダーで上手くカウントをとることができ、130キロ台後半のカットボールとフォークも決め球として有効なボールだった。
課題を挙げるとすれば、この日1球しか投げなかったカーブなどの緩い変化球となるが、大学生のレベルであればストレートと速い変化球で十分抑えることはできるだろう。
底知れない潜在能力を感じるピッチング
試合後には、約1年ぶりの公式戦だったということで「思った以上に緊張した」と話していたが、ネット裏から見ている限りではそんな緊張は微塵も感じさせない堂々とした投球だった。
長い自粛期間も、気持ちを切らさずにトレーニングに励んできたとのことだったが、秋のリーグ戦に照準を合わせて調子を上げ、初戦で自己最速をマークしたのは立派である。
そして何よりも、投手に専念して2年足らずで、ここまでのレベルのピッチングができるというところに底知れない潜在能力を感じた。
投手・水上由伸としての歴史はまだまだ始まったばかりと言えるだろう。
☆記事提供:プロアマ野球研究所