コラム

「反則投球じゃない?大丈夫?」 井端氏を驚かせた男・マルクが歩むデビューへの道

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2017年の入団発表時の写真。マルクは右上 (C) Kyodo News

ナゴヤ球場で原石を探す


 あれは7月中旬だった。侍ジャパンの内野守備走塁コーチ・井端弘和氏が解説の仕事で数日間、名古屋に滞在していた。

 コロナ禍のため、ほいほい出歩くわけにもいかない。ナイターとナイターの間、昼の時間をもてあましているという。連絡を受けて、ナゴヤ球場の二軍戦を取材しに行こう、という話になった。待ち合わせ時間を確認し、炎天下のスタンドに腰を下ろした。


 その日は、ウエスタン・リーグの中日−ソフトバンク戦が行われた。

 試合の数時間前には到着して、打撃練習やノック、投手のキャッチボールに目をこらすのが井端流。そもそも、球場を訪れた目的は「何年後かに一軍で活躍していそうな選手を見つける」というものだった。


 記者は「根尾はどうですか?石川昂は?」と聞いた。

 「違う。ドラフト1位は、自然と出てくる。そうじゃなくて、世間が知らないような選手を見つけるの」と返ってきた。


目を引いた“変則右腕”


 現役時代から有望株の発掘には定評があった。

 中日時代。ケガのためナゴヤ球場でリハビリしていた。その時、ソフトバンク・柳田ら二軍選手をみて、「日本を代表する選手になる」と、確信を得た表情で話していたのだとか。

 まだ、柳田が一軍出場もままならないころ。どこをどう見て「ダイヤモンドの原石」か、はたまた「ただの石ころ」と判断するのか。説明を聞きいていた。


 その時だった。

 「おい!あれ見てみろ。何なんだあれ!変なのがいるぞ!!」

 視線の先は石田健人マルク投手(25)。名古屋出身で地元・東邦高に進み、その後は龍谷大へ進学。2017年の育成ドラフト2位で入団している右腕だ。

 独特なフォームは、担当記者ならみんな知っている。グラブを持つ左腕を高く挙げて、テークバックから右手を挙げた、と思ったら挙げきらない。周囲が「あれ?」と思った瞬間、右腕が挙がってくる変則っぷり。井端氏は「反則投球じゃない?大丈夫?」と話していた。


 思い出していたのは、数年前にメジャーリーグをわかせた右腕カーター・キャップス。マーリンズなどでプレーしたリリーバーだ。

 リリース直前に、軸足の右足をプレートから外してワンステップする「ジャンプ投法」。しかし、2017年のルール改正で不正投球となり、フォーム変更を余儀なくされている。


 マルクのフォームはカーター・キャップスとは違っても、やはり気になる。動画サイトでフォームをスロー再生してみた。繰り返し見た。何度見ても、問題なさそう。ジャンプ投法ではない。

 井端氏は試合を見て、根尾ら未来の竜を支える若手の成長具合をチェック。「マルクを見られてよかったよ」と言い残してナゴヤドームへ向かった。


「どんどんストライク投げちゃっていいと思う」


 あれから2カ月。マルクは支配下登録された。ウエスタン・リーグでの登板20試合、防御率2.29が認められた。

 9月23日、登録締め切りまで1週間前での決定。会見で右腕は一軍での登板に意欲を示し、結果を求める考えを示した。 


 支配下決定を知った井端氏の表情は明るかった。現役時代を振り返りながら、対戦イメージを膨らませてもらった。

 「タイミングが分からないから、『あれ?』って思った初球で1ストライク取られる。2球目、振りに行っても『あれ?』ってなる。すぐに追い込まれそうだね。彼はどんどんストライク投げちゃっていいと思う」と教えてくれた。


 シーズンも残り約4分の1。支配下にした、ということは、一軍で見られる日は近いということだろう。

 どんなデビュー戦になるのだろうか。楽しみにしていようと思う。


文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)
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