コラム 2020.10.13. 07:09

長嶋茂雄や原辰徳、あのイチローにもまさかの代打…!? ファンも驚愕した“世紀の交代劇”

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イチローに代打…!? (C) Kyodo News

「勝負の代打」にまつわるエピソード


 プロ野球・2020年シーズンもいよいよ大詰め。セ・リーグは巨人がリーグ連覇に向けたカウントダウンに入っているが、パ・リーグはソフトバンクとロッテが激しい優勝争いを展開中。さらにその先に待つのはクライマックスシリーズ、そして日本シリーズへ…と、今後は“負けられない戦い”が続いていく。


 互いに一歩も引かない均衡した展開で、ひとつ大きなカギを握るのが“代打”という存在。勝負を決める重要な場面を任されることも多く、彼らの働きが勝利に直結することだってある。

 球史を振り返ってみると、主力選手や誰もがその名を知るようなスーパースターにあえて代打を送り、勝負をかけた采配もあった。今回は、そんな“世紀の交代劇”を回顧してみたい。


長嶋茂雄にまさかの代打!?


 巨人のV9時代といえば、王貞治と長嶋茂雄の“ON”が打線の主役だったが、その長嶋に代打が送られる珍事が起きたのが、1967年5月27日の中日戦だ。


 3点を追う巨人は、9回二死一塁で3番・長嶋に打順が回ってきた。巨人ファンなら、「長嶋と王の連続ホームランで一気に同点だ!」と夢見ても、何ら不思議のない場面である。

 ところが、ここで川上哲治監督がベンチを出て、なんと、代打を告げるではないか。スタンドが「まさか!?」とどよめいたのは言うまでもない。

 「どんなベテランにもスランプがある。長嶋もこれほどスランプが続いているときには、心にゆとりを取り戻させることが必要だと思った。いくら大打者とはいえ、今不調のバッターには、好調な打者を(代打で)出したほうがいい」というのが理由だった。


 同年、長嶋は5月の月間打率が.181という絶不調。この日も3打数1安打も、1三振に1四球という内容。一方、代打に指名された森永勝也は、5月24日の広島戦と前日の中日戦で2試合連続代打安打と結果を出していた。

 それでも、あの長嶋の代打とあって、「僕の野球人生の中で、この時の緊迫感が最高だったと思う」と回想するほどのプレッシャーのなか、森永は必死で来た球を振って、板東英二から右前安打を放つ。

 そして、二死一・三塁で打席に王。レフトへあわや同点3ランか…という大飛球を打ち上げたが、江藤慎一がジャンプ一番好捕。巨人は2-5で敗れた。


 なお、1965年の不調時には「守備から途中交代」を経験していた長嶋だが、代打を送られたのはプロ入り後初めての屈辱。「しょうがない。オレはこんなに打てないのだから。5回に左前安打したが、あれはど真ん中だったから打てたんだ」と、寂しそうな表情だった。

 それでも、森永が翌28日の中日戦でも代打安打を記録すると、「モリさん、いい仕事をするねえ。あの人、これで4試合連続代打で出てヒットを打っている。誰にでもできることじゃない」と手放しで賛辞を贈っていたのも、ミスターらしい。


原辰徳に代えて「代打・長嶋一茂」


 今度は巨人・長嶋監督が、「まさか!?」の代打を送った話である。

 1994年9月7日の横浜戦。加藤将斗の前に6回までわずか2安打に抑えられていた巨人は、0-0の7回、コトーの代打・緒方耕一が一飛に倒れたあと、一死走者なしで6番・原辰徳に打順が回ってきた。

 プロ14年目の原は同年、左足アキレス腱の部分断裂で開幕を二軍で迎え、一軍復帰も6月中旬までずれ込んだが、7月30日のヤクルト戦から3試合連続本塁打を記録するなど、随所で“元4番”の存在感を示していた。


 この日は1打席目に二飛、2打席目は二ゴロに倒れていたものの、原のバットが重苦しいムードを打ち破ってくれると期待するファンも多かった。

 ところが、原が打席に向かおうとした直後、なんと、長嶋監督がベンチを出て、代打を告げた。指名されたのは長嶋一茂。

 「エーッ!?」「どうして!?」とスタンドが騒然となったのは言うまでもない。そして、一茂は初球フォークに手を出して三ゴロ。試合も1-2で敗れた。


 試合後、報道陣から代打の理由を聞かれた長嶋監督は「刺激策?いえいえ、1点勝負だから、守備を重視したんです」と説明した。

 中畑清コーチも「同じパターンでやられていたし、流れを変えたかった。人選は次の守備を考えてね。原にはつらかったかもしれないが…」と補足したが、原にそのまま打たせ、8回の守備から一茂でも良かったようにも思われた。

 「そりゃ、悔しいよ。でも今(リーグ優勝目前)、どうこう言う時期じゃない。まだゲームが残っているんだし、これ以上喋ると余計なことを言うから、やめておこう」

 悔しさを封印した原は、西武との日本シリーズ第2戦で初回に先制タイムリーを放ち、1-0の勝利をもたらすなど、5年ぶり日本一奪回に貢献。現役引退前年に“最後のひと花”を咲かせている。


「イチローに代わりまして…」


 一打同点のチャンスに打者・イチロー。こんな固唾をのむシーンで、まさかの代打が告げられたのが、1998年9月13日のオリックス-ロッテだ。


 7回に1点を勝ち越されたオリックスはその裏、一死二塁のチャンスをつくり、3番・イチローに打順が回ってきた。

 ところが、次の瞬間、「バッター、イチローに代わりまして…ニール!」のアナウンスが。もちろん、スタンドのファンも「なぜだ!?」である。


 実は、6回の攻撃中、ベンチ裏でとんでもないアクシデントが起きていた。

 この回、先頭打者で一ゴロに倒れたイチローがロッカールームで着替えていると、すぐ横でスイングしながら、打撃フォームをチェックしていたニールのバットが勢い余って、イチローの前頭部をゴツーンと直撃してしまったのだ。

 応急処置を行い、痛みをこらえながら7回の守備に就いたものの、額が腫れ上がっていたため、大事をとって打席に入らず交代したという次第。


 「頭がガンガンしますよ。カッコ悪いな」とベンチに下がったイチローに代わって、打席に立ったニールは一ゴロ。“借り”を返すことができず、「ゴメン、ゴメン」と肩をすくめていたが、試合は8回に追いついたオリックスが延長10回に4-3でサヨナラ勝ち。

 イチロー不在、代打不成功でも逆転勝ちするのだから、野球はやっぱりミステリーなのかもしれない。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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