社会人野球に進むと見られていた
“高校No.1投手”の呼び声が高い高橋宏斗(中京大中京)が大学進学からプロ志望へと転じたことで、大きく動いた今年のドラフト戦線。しかし、ここへ来てまた大きいニュースが飛び込んできた。
10月8日、東海大の“最速153キロ右腕”・山崎伊織がプロ志望を表明。山崎は昨年10月に行われた横浜市長杯以降、故障で実戦を離れており、今年に入って右肘靭帯の損傷が判明。3月にはトミー・ジョン手術を受け、進路は社会人野球と言われていたが、ドラフト会議まであと3週間を切ったこのタイミングで進路希望を転換することとなったのだ。
山崎は明石商時代は控え投手兼外野手だったものの、当時から潜在能力の高さは評判となっており、東海大進学後は2年春から先発陣の一角に定着。昨年は春・秋連続でリーグ戦のMVPを受賞し、秋には最優秀投手とベストナインも合わせた三冠に輝く活躍を見せていた。
ここまでのリーグ戦通算成績は17試合に登板して11勝1敗、防御率1.09という圧巻の数字を残している。
早川よりも実績は上
現時点で“ドラフトの目玉”と言われているのが早稲田のエース左腕・早川隆久。今年に入って大きな進化を見せているが、リーグ戦の通算成績だけを見れば11勝12敗、防御率2.71だ。
また、昨年“大学No.1”と言われた森下暢仁(明治大→広島)も、4年間の通算成績は15勝12敗、防御率2.42。リーグは違うとはいえ、いかに山崎の数字が凄いかがよく分かる。
ちなみに、東海大の所属している首都大学野球連盟は、東京六大学と比べてもそこまで大きな力の差があるわけではない。
少なくとも昨年秋のシーズンが終わった時点では、「大学No.1投手は誰?」と聞かれれば、多くの人は山崎と答えていただろう。
元ヤクルト・伊藤智仁と重なるイメージ
昨年、大学日本代表に選ばれた時のプロフィールでは「181センチ・72キロ」となっており、大学生にしては細身なのが気になるところだが、長いリーチを強く柔らかく使える腕の振りは最大の長所。下半身の柔軟性も申し分なく、フォームのイメージは伊藤智仁(元ヤクルト)に重なる。
伊藤と似ているのはフォームだけではない。ストレートはコンスタントに150キロ前後をマークし、打者の手元で鋭く変化するスライダー、カットボールも伊藤に通じるものがある。
加えて制球力も申し分なく、奪三振率の高さも大きな魅力だ。故障がなく、今年も昨年と同様のピッチングを見せていれば、一番人気になった可能性は高かったはずだ。
とはいえ、冒頭で触れたようにトミー・ジョン手術を受けていて、現在はリハビリ中でキャッチボールも再開していない段階だという。ドラフトでこのような状態の選手を指名するというのは、当然ながら球団にとってリスクを伴う話である。
東海大といえば、巨人・原辰徳監督の母校であり、球団との繋がりも強いチームということで、巨人が狙っているという噂もあるが、思えば昨年ドラフト1位で入団した堀田賢慎も今年、同様の手術を受けており、2年続けて故障を抱えた投手を上位で指名するのはかなり勇気がいることは間違いない。
一方、今ではトミー・ジョン手術を受けること自体が珍しくなくっており、ほとんどの選手が問題なく復帰しているここ数年の状況を考えると、早めに手術に踏み切ったことをプラスととらえることもできる。
よく大学生の投手を“即戦力”と評することが多いが、実際に1年目から一軍の戦力となれるケースはごくわずかである。1年目にしっかりリハビリをして、2年目に戦力となれるのであれば、十分に上位指名に値すると判断する球団が出てきても、不思議ではないのではないか。
ドラフト上位で指名される可能性も…
では、どの程度の順位で指名されるかだが、最も確率が高いのは「2位」ではないだろうか。
1位で狙っていた目玉の選手を獲得することができ、さらに投手陣にある程度余裕のある球団であれば、数年後のエース候補と考えて2位で確保しておこうという考えが働くことも十分に予想される。
過去のドラフトを振り返ってみると、1991年のドラフト会議では落合英二(元中日)が大学4年時に肘を骨折する重傷を負ったが、その高い潜在能力を評価した中日が外れ1位で指名したという例もある。
その落合は入団1年目こそ手術とリハビリでシーズンを棒に振ったものの、リリーフ陣に中心として長くブルペンを支える存在となった。このような例を見ると、プロ入り当初の1年よりも先を考えて上位で指名することも、決して悪くない選択と言える。
山崎の決断に対して、プロ側がどのような判断を下すのか。ドラフト会議当日の大きな焦点の一つとなることは間違いない。
☆記事提供:プロアマ野球研究所